あとがき




 日本における清末小説研究に関する文献を集めて単行本にするのは、これがはじめてであろう。
 ひろい中国文学研究のなかの1分野として清末小説研究は、存在する。文献目録のなかに、含まれて編まれることは、私の知っているかぎりでも、2例ある。
 石川梅次郎監修、吉田誠夫ほか編『中国文学研究文献要覧1945-1977 戦後編』(日本・日外アソシエーツ1979.10.5)
 飯田吉郎『現代中国文学研究文献目録 増補版』(日本・汲古書院1991.2)
 あるいは、清末の四作家について文献目録が編集され、そのなかに日本での研究文献が収録されることもある。
 だが、日本の清末小説関係文献だけが独立して編集されることは、なかった。
 中国では、本書の前身が発表されている。
 樽本照雄「清末民初小説研究目録――日本及其他国家篇目」(『中国近代文学大系』第12集第30巻史料索引集2(魏紹昌主編) 上海書店1996.7。997-1092頁)
 日本語のままで収録された。ただし、収録範囲は、1991年までで、すでに古い。現在進行中の研究論文を収録するのだから、時間がたてば古くなるのもしかたがない。
 清末小説研究会は、2種類の定期刊行物をもっている。
 ひとつは、年刊『清末小説』で長い論文を収録する。2001年に第24号を発行した。
 もうひとつの季刊『清末小説から』は、比較的短い論文と文献目録を掲載している。2002年1月に第64号を発行し、4月には第65号がお目見えする。
 『清末小説から』に掲載している文献目録を集めて本書が成立したというわけではない。その反対で、研究文献目録をもともと作成しており、最新部分を抽出し雑誌に掲載しているというわけ。
 2000年3月、清末小説研究会のホームページに本目録の一部を公開している。
 便利なようで不便なのは、インターネットを利用しようとすれば、各人が電脳をもち、電気が必要なことだ。寝ころがって見ることもできない。印刷物におよばない点であろう。
 もとの研究文献目録は、中国で発表された論文が多数を占めるが、そのなかから日本で公表された文献を抜き出したのが、本書である。
 本書を刊行する理由は、日本における清末小説研究がどのようにおこなわれているのか、客観的にながめるところにある。
 その研究内容は、受信だけの状態から発信へと変貌をとげていることが明らかだ。清末小説も、そのほかの研究分野とおなじく、全世界化の傾向にあるということの証明でもある。すなわち、清末小説研究も中国だけの専有ではなくなっているという意味なのだ。
 『清末小説』と『清末小説から』の2専門誌が、中国ではなく日本で発行されつづけている。しかも、個人の主宰なのだ。このほとんど信じられないような事実は、強調してしすぎることはない。
 発表の場が確立されているからこそ、研究者は、安心して研究論文を発表することができる。
 著者の顔ぶれをみれば、清末小説研究の最先端を切り開いている研究者ばかりであることが容易に理解できよう。ゆえに、日本における清末小説研究といっても、日本人以外の研究者が名前を連ねる結果となっているのだ。これこそが、研究の全世界化ということでもある。
 もうひとつの特徴は、目録に劉鉄雲(蝶隠)、李伯元、呉〓人らの名前が見えることだ。すなわち、清末作家に関する原資料が、日本で発表されていることにほかならない。原資料が、日本で発見されることなど、これもほとんど奇跡に近いのではあるまいか。このことに気づいている人は、いない。それくらい、無視されて来た研究分野であるということもできる。
 2専門誌にかぎらず、日本では、大学紀要などにも清末小説研究の論文は掲載されている。
 本目録では、できるだけ収録するようにつとめた。ただし、遺漏があることを免れない。ご教示をお願いしたい。
 本目録の発行が、清末小説研究にすこしでもお役に立てばうれしい。

樽本照雄