あとがき




 本資料集の特色をひとことでいえば、初出の原資料をそのまま収録した点である。
 すなわち、『世界繁華報』初出の「官場現形記」、出版広告、また『游戯報』の関連出版広告などだ。さらに、各種版本についても原資料をおさめている。
 李伯元「官場現形記」が『世界繁華報』に連載されていたことは周知の事実だ。
 しかし、上海で刊行されていたこの『世界繁華報』という新聞は、有名であるにもかかわらず、私は長い間、直接、目にする機会がなかった。
 上海の新聞だ。日本に所蔵されているはずもない。中国の図書館でも、普通に所蔵されるという種類の新聞ではなさそうだ。しかも、中国へ行くこともできなかった時期があった。当時は、原物を手にすることは、夢のまたユメである。資料集に掲げられた写真、あるいは引用される文章でそのおおよそを知るだけだった。
 のちに機会があり、『世界繁華報』の一部は、移転前の上海図書館で見せてもらったこともある。しかし、本当に利用することができるようになったのは、マイクロフィルムが作成されてからだといってもいい。移転後の上海図書館で利用した。それらは、今では日本でも購入することができる。
 当時の上海で発行されていた新聞を読むことできるというのは、研究のうえで大きな意味を持つ。原物が利用できるのだから便利になった。たとえ、欠号が多かろうとも、ないよりも数段マシなのである。
 という事情で、現在、日本で利用できる新聞資料のなかにある「官場現形記」関係の記事を抜き出した。これが、本資料の柱のひとつだ。
 もうひとつの柱は、『官場現形記』の単行本の関係部分を複写でかかげたことだ。
 原本系と搨獄{系のふたつがある。縮小はしているが、関係部分の書影をそのまま収録した。資料として保存する意味も、当然ながら、ある。
 この資料集に掲載した版本の多くは、日本の公共機関に所蔵されている。私が日本で入手した版本も、わずかではあるがおさめた。
 これらの資料は、収集するために集めたものではない。研究の必要にせまられて、結果としていくつかが集まったということだ。
 こうして並べてみると、その出版が多様であることが理解できよう。今まで書かれた研究論文には言及されていない版本もいくつかあることを強調しておきたい。
 本書は、中国で編集出版されるべき種類の資料集であると考えないわけではない。私は長い間待ったが、残念ながら、中国ではついに出現しなかった。
 研究に役立つ資料集だと私は確信している。

樽本照雄