あとがき


 本ガイドは、第1部の論文についてと第2部の文献紹介のふたつに分かれている。表題のとおり「清末小説」を研究したいという人を対象にして編集した。ただし、第1部に示した論文を書くときの留意点は、清末小説に限ったものではない。どの分野であろうとも論文を執筆発表するばあいには注意しなければならないことがらだ、と私は考えている。
 ガイドブックのむつかしいところは、それが本質的にそなえている性格に起因するのかもしれない。その分野についての知識をまったくもたない人にとっては、ガイドのどの項目を見ても何がなにやら理解できない。掲載された文献を一覧するだけでその詳細を思い浮かべることのできる熟練者にしてみれば、本ガイドブックは必要ではない。だから、初心者を読者として想定しているといっても、ある程度の情報をすでに獲得している人ということになる。
 実をいえば、本ガイドは、30数年前の私自身が必要としていたものなのだ。卒業論文は大学紛争時期だったから、教授からの論文指導はなかった。ただ、書け、といわれても途方にくれる。なにをどう書けばいいのか。わからないものはわからない。せめて、他人がやらない分野というので「老残遊記」を選んだ。他人がやらないということは、資料が十分ではないと同じ意味だというのに、あとから気づいてほぞをかむ。
 ゴタゴタして落ち着かない状況のもとで、わずか1年とすこしでこんどは修士論文だという。すべてが手探り状態だった。論文をさがし、引用文を手がかりに次の文献を探索する。これの繰り返しだ。そうして現在にいたっている。
 学生時代の私が欲しかったガイドブックを、自分で編集したことになる。時間がかかったものだ。

樽本照雄