清末小説から


★前号で、梁啓超と徳富蘇峰の「インスピレーション」について述べた。その後、わかったことなどを報告する。
 1.未見であった『静思余録』は、国会図書館で閲覧した。また、のちに古書店から入手することができた(国民叢書第4冊、民友社1893.5.1/1911.1.20四十一版)。『静思余録』に収められた「インスピレーション」が、初出『国民之友』第22号(1888.5.18)と異なるのは、初出に付けられているみっつの章題を省略している点である。梁啓超の「烟士披里純」では、その章題が見えない。梁啓超は、『静思余録』所収の文章によったと考えて間違いなかろう。
 2.筧文生氏より、すでに中国人研究者の指摘があるとご教示いただいた(1991.1.14付けハガキ)。王暁平『近代日中文学交流史稿』(中華書局香港分局・湖南文芸出版社1987.12.15)である。王氏は、馮自由の文章とは無関係に梁啓超と徳富蘇峰の「インスピレーション」に注目されたものと推察する。王氏は明記していないが、 蘇峰の該文については、『近代文学評論大系』第1巻明治T(角川書店1971.10.30)に収録したものを使用していることがわかる。『近代文学評論大系』では、蘇峰の文章を引用したその末尾に(「国民之友」明二一・五、二二号)と記述する。それを王氏は、「最初発表於1888年5月22日《国民之友》」というように二二号を5月22日に勘違いしているからだ(274頁)。ちなみに『国民之友』22号は、5月18日発行が正しい。もうひとつ、これも王氏は書いていないが、王氏の276頁3-8行は、『近代文学評論大系』の浅井清「解説」そのままである(480頁下段)。
 3.伊藤漱平氏から、「梁啓超は『盗用』とは意識していなかったのではないか」とハガキをいただいた。私もそう思う。やや刺激的な「盗用」という言葉をつかったのは、馮自由の用法にならっただけなのだ。


山下 武○蘇曼殊の『断鴻零雁記』を掘り出す 『週刊読書人』1991.2.4
狭間直樹ほか○近現代中国人物別称データベースBESSHOU  『京都大学大型計算機センター広報』23巻6号 1990.12.20
顔 廷亮○《晩清:小説理論近代化的歴程》巻端贅言 蘭州『社科縦横』1990年第5期 1990.10.25
岳  杉○(『恋《魯男子》第一部』)後記 『恋』北京・中国文聯出版公司1990.3
祝 均宙○李伯元重要佚文新発現――証実《海天鴻雪記》非李之作  『中華文学史料』1 1990.6
樽本照雄○「老残遊記」批判とは何か 『野草』第47号1991.2.1