(資料紹介)


民国初期の小説雑誌『好白相』


渡 辺 浩 司


 2001年9月に中国で『好白相』という民国初期の小説雑誌を購入した。購入したのは、第一期から第五期までである。奥付を記すと、

●第一期
 中華民國三年八月
 好白相小説 毎部一册定價大洋一角
 編輯者 豐城陳耕漁/〓溪〓中散
 印刷者 三捷小説社
 總發行者 新劇小説社
 發行者 民鳴新劇社/藝林書局/掃葉山房
 代售處 各大書局均有出售

●第二期
 中華民國三年八月二十號出版
 好白相小説第二期
 【發行者に「海左書局」が加わり、「掃葉山房」が「南北掃葉山房」になる。ほかは第一期に同じ。】

●第三期
 中華民國三年八月三十一號出版
 好白相小説第三期
 【第二期に同じ。】

●第四期
 中華民國三年九月十號
 好白相小説第四期
 【第二期に同じ。】

●第五期
 民國三年九月念號出版
 好白相小説第五期
 【第二期に同じ。】

 この『好白相』については、管見に及ぶ限りの辞典類には未載で、寡聞にして言及した論文も知らない。よって、第何期まで出版されたかは不明である。

 まず、タイトルの「好白相」は、出版地から見ても、呉方言であろう。『簡明呉方言詞典』(閔家驥ほか編、上海辞書出版社1986.5)には、「形容詞。好玩儿…」とある(113頁)。
 編輯者の「豐城陳耕漁」は、第一期の写真頁に、

  「本小説主撰者」「耕漁室主陳治安,號稼夫,別署太溪村民,一號陶人,〓之豐城人也」(句読点は渡辺、以下同)

とある。しかし、この「陳治安」について、他のことは不明である。
 もう一人の「〓溪〓中散」は、第一期の「中散子傳」(耕漁室主)に、

  「精益〓姓,銘鼎名,初字虚明,又字均一,性疏懶,別號中散子,今自號池龍…」

とある。この人についても、具体的な経歴は不明である。
 総発行者の「新劇小説社」の所在地は、奥付裏の「分售處」紹介の下に、

  「總批發處上海四馬路中第一百十八號半 高長興酒店樓上 新劇小説社啓」

とある。その名と広告から、小説と劇関係の書籍を扱っていたようだが、他のことは不明である。

 『好白相』の内容は、短篇の「小説」集である。以下に各期の目次を記す。(アラビア数字は開始頁を表す、広告は別頁になっている)

●第一期
 ・〓中散/陳耕漁/特別起事【表紙裏に貼り付けてある】
 ・好白相弁言
 ・好白相小説出版戲言(耕漁室主)
 ・広告1−2頁
 ・写真
 ・中散子傳(耕漁室主)
 ・好白相第一期目録
 ・寫情小説 鳳鸞劫(池龍)1頁
 ・滑稽小説 情疑(病塵)13
 ・広告3−4
 ・警世滑稽 載鬼一車(稼夫)17
 ・諧言小説 吹脱帽子(耕漁室主)22
 ・短篇小説 童子軍(公天)26
 ・短篇記實 好事莫成(三窮著)29
 ・短篇滑稽 洋濱話(昌俗)31
 ・広告5−6
 ・遊戲短篇 〓脚先生(不著名)33
 ・記事短篇 奇竊(馮孤舟譯)36
 ・評劇小説 新十八〓(耕漁室主著)42
 ・短篇苦情 情海波(黄夢影)49
 ・遊戲短篇 爭總統(劍塵)56
 ・醒世小説 逆婦變犬(均一)61
 ・趣劇小説 押店夥計(耕漁室主著)63
 ・哀情小説 小寃家(劍塵)73
 ・滑稽小説 男新娘(蜂蜂)79

●第二期
 ・好白相第二期目録
 ・広告1−2頁
 ・写真
 ・哀情小説 悼梅影(池龍)1頁
 ・滑稽小説 好白相(天籟)12
 ・哀情小説 小寃家(劍塵)18
 ・諧聞小説 和尚弔膀子(柳舫)27
 ・實事小説 賭徒没造化(玉)30
 ・滑稽小説 閙新房(鄭定瑞)34
 ・寓言短篇 病夫日記(劍塵)37
 ・時事小説 假女子(卜父)43
 ・神怪小説 男女鬼(款乃)45
 ・時事紀實 江北車夫(耕漁室主著)47
 ・〓情小説 白衣漢(奇童)50
 ・哀情小説 桃花女郎(慧禪)54
 ・幻情小説 鴛鴦夢(蛟川張郎)57
 ・諧言小説 豈有此理(耕漁室主)60
 ・社會小説 妙想天開(胎博)64
 ・広告3−4
 ・醒世小説 求雨(蛟川張郎)67
 ・滑稽短篇 電話中炸彈(天靈)71
 ・短篇紀異 行尸(均一)73
 ・広告5−6

●第三期
 ・広告1−4頁
 ・好白相第三期目録
 ・写真
 ・哀情小説 悼梅影(續)(池龍)1頁
 ・紀實短篇 烟火學校(鎭海軼池)16
 ・紀實短篇 余六郎(鎭海軼池)19
 ・怨情小説 中秋惡夢(劍鹿)22
 ・筆記短篇 妓情(蛟川張郎)34
 ・怪誕小説 蛇復仇(二則)(均一)38
 ・實事小説 巡捕惡(鄭定瑞)41
 ・醒世紀事 文明盪白(痴雲)44
 ・短篇紀事 海隅扶棹記(畢公天)48
 ・短篇愛情 玉釵縁(王關忠著)50
 ・言情小説 痴心女子(朗軒)57
 ・紀實短篇 薄命女(率眞)68
 ・艶情小説 春閨夢(慧禪)71
 ・實事小説 摧花使者(胎博)76
 ・滑稽紀實 燒得精光(博甫)79
 ・怪誕小説 新子不語(一鳴)81

●第四期
 ・広告1−6頁
 ・好白相第四期目録
 ・写真
 ・紀實小説 參歡喜禪(西冷釣者)1頁
 ・愛情小説 不忍離(畢公天)7
 ・社會小説 金錢世界(窮智)11
 ・理想小説 風涼話(譚天風)14
 ・社會小説 程二(一名維新鏡)(鎭海軼池)17
 ・偏情小説 春閨夢(慧禪)19
 ・醒世短篇 女鏡(鎭海軼池)23
 ・短篇社會 弔膀醜態(王關忠)28
 ・紀實小説 學界蠹(王關忠)30
 ・社會小説 破鏡重圓(振標)32
 ・箚記短篇 死人太息(鄭定瑞)35
 ・慘情實事 可憐女郎(蛟川張郎)37
 ・遊戲小説 好白相(雪初)41
 ・紀異小説 古室中之女郎(陳孤雁)44
 ・醒世短篇 哭丐(均益)46
 ・社會小説 巧妻常伴拙夫眠(均益)49
 ・苦情小説 劫後姻縁(如湛)53
 ・家庭小説 無教育(一鳴)65

●第五期
 ・広告1−6頁
 ・好白相第五期目録
 ・周漁幻君小傳(耕漁室主)
 ・写真
 ・諧情小説 牛郎第二(秋心)1頁
 ・滑稽小説 天狗星吃月亮(士英)7
 ・滑稽小説 阿叔(華魂)9
 ・艶情小説 春閨夢(慧禪)18
 ・家庭小説 惡姑嫂(劍鹿)23
 ・記事小説 莫做虧心事(精益)27
 ・滑稽小説 原來是月喫月(公天)30
 ・滑稽小説 老面皮(花魂)34
 ・紀實小説 婢鬼復仇記(王關忠)36
 ・苦情小説 劫後姻縁(續)(如湛)39
 ・紀實短篇 董不全(鎭海軼池)51
 ・言情小説 洪喬雪影(漁幻)55
 ・哀情小説 情敵(劍鹿)59
 ・短篇小説 狡劫(卜父)63
 ・癡情小説 玉〓縁(一鳴)66
 ・紀實小説 洋奴(半江)73

 まだすべてを読み終えておらず、また、民国初期の上海小説事情にも暗いので、この『好白相』が特異なものか、それともありふれたものだったか、判断できない。故に、ここでは、目に付いた作品を取り上げて、紹介を終えることとする。

*李伯元の花榜
 第四期『偏情小説 春閨夢』(慧禪)第二回に以下のような記述がある。

  「從前南亭亭長李伯元創辨游戲報的時候,也曾點過花榜状元。一登龍門,聲價十倍,與那祝如椿,先後齊名。光陰迅速,曾幾何時,李伯元以肺疾去世。」(19-20頁)

 樽本照雄「遊戯主人選定『庚子蕊宮花選』−花榜と花選−」(清末小説研究第5号、清末小説研究会1981.12.1)が引く陳伯煕編『上海軼事大観』(上海泰東図書局1924.2六版)に、1900(光緒庚子)年の花榜状元として「小祝如椿」が挙げられており(17頁)、この記述と一致する。游戲報主催の花榜は、民国になっても語り継がれていたのだろう。

*第五期
 第五期『滑稽小説 原來是月喫月』(公天)に以下のような記述がある。

  「阿呀。阿媛爺,這聲音不是放那排鎗的聲音麼。不好了。…不好了。…
   〓! 阿媛娘,我想起來〓。是東洋人來奪上海了。前幾天我曾經在報紙上看見的新聞,現在歐洲各國都在交戰,上海的各國領事老爺都已囘到本國去,相〓他們打了。東洋人乘他們囘去的時候,所以來奪上海了。這〓事却與吾們不相干。…」(30-31頁)
  「現在土匪横行的時候,東洋人果然是奪上海。這土匪那肯不擾動,殺人放火,無惡不作。…」(31頁)

 この「東洋人」は、日本人を指すと思われる。第一次世界大戦開戦時の上海には、早くもこのような風評が立っていたのだろうか。重苦しさを感じるが、最後は次のようになっている。

  「阿呀。阿媛娘,上當了! 上當了!! 不是東洋人奪上海,原來是月喫月。〓速去罷。…」(32頁)

 同じく第五期『紀實小説 洋奴』(半江)には以下のような記述がある。

  「而站於英人之旁者,非洋奴乎。非我華人而作洋奴乎。嗚呼可恥。」(73頁)
  「「〓! 皮篋給我看。」此何聲。乃車站上之警察稽査行李也。洋奴聞言,怒曰:「咄! 〓眼生在那邊。洋大人的東西容〓稽査〓。〓敢稽査洋大人的東西〓。」…」(73-74頁)
  「警察祇得低首不言,稽査我華人行李去矣。而洋人〓鬚微笑,稱讚其善欺同胞。遂坐馬車向前去。」(74頁)

 さらに「鈞益識」語にも、

  「半江此篇之作固實紀其眞情,非敢玩弄楮墨以娯閲者。然閲者諸君對於此篇,當發何種感情也。
   嗚呼,今者政府,對於國民則專制摧殘,無所顧恤,對於外人則奴顔婢膝,極意逢迎,推至治外權太阿倒持,抵押品關税殆盡,非章驅國民爲洋奴不正,區區一洋奴何容深責乎。」(74頁)

とある。
 ひょっとすると、『好白相』はこれらの内容のために第五期で停刊になったのかもしれない。