『図画日報』影印版のこと2


沢 本 郁 馬



 一般には見ることのできない刊行物を影印出版することの学術的価値は、きわめて高い。資料保存の見地からしても意味深い。手にとればくずれてしまいそうな酸性紙に印刷されている原物であれば、なおさらのことだろう。
 以前に紹介した『図画日報』の影印版全8冊(上海古籍出版社1999.6)がそれにあたる(沢本郁馬「『図画日報』影印版のこと――附:『図画日報』所載小説目録」『清末小説から』第57号2000.4.1)。
 貴重な出版物でありながら、いや、だからこそ、学術的価値を損なう部分があることを残念に思ったのだ。
 すなわち、「原物には、表紙がついていてそこに発行年月日が印刷されている。その表紙を影印していない」。
 本来あるものをなぜ削除するのか。発行の日付が不明では、資料として使用できない、という当然な指摘にほかならない。
 『図画日報』は、その名前のとおり図画を主体として文章を配置した小冊子形式の日刊紙である。小冊子といっても、折り畳んでいるだけで書籍のように綴じてはいない。毎号、表紙と裏表紙がノリづけされている。
 編集発行元は、上海の環球社である。日中両国の人物が協力していると説明される*1のは、絵画部に井原太郎、撮影部に福井三島の名前を裏表紙の表示に見ることができるからだろう。
 毎号12ページを埋めているのは、内外の時事、小説、演劇など雑多な記事である*2。

 ちかごろ、同じ『図画日報』を収録した資料集が出版された。
 『清末民初報刊図画集成続編』6-15(北京・全国図書館文献縮微複製中心2003.8 国家図書館蔵古籍文献叢刊)である。
 私の所蔵する原本の幾冊と上記2種類の影印本をみくらべる。
 影印本だから原本と同じだ、と普通は考える。ところが、いくつかの相違点があることに気づいた。
 柱には、「環球社図画日報第○号第○頁」と手書きの文字で示される。
 上海古籍出版社版は、上方に横組みして活字で表示する。ここが、まず、原本と異なる。
 北京・全国図書館文献縮微複製中心版(以下、中心版という)は、各ページの左側に手書き文字で表示する。手書きというのは、『図画日報』は、全体が手書きの石版印刷なのだから、あたりまえだ。
 原本の姿をそのままに復元しているというのであれば、中心版のほうに軍配をあげる。つまり、上海古籍出版社版は、原本にある柱を削除してわざわざ活字で組み直したことがわかる。
 中心版には、第69号と第70号の間に「上海環球社図画日報館刊印中西月〓表」がある(3121頁)。
 上海古籍出版社版は、第2巻228頁からすぐに229頁の第70号がつづいており、中西月〓表は、ない。収録もれということだ。
 中心版には、第173号に活字印刷の「図画日報第二年出版紀言」がある(4364頁)。しかし、上海古籍出版社版には、ない。
 ここまで見ると、比較して中心版の方がすぐれた影印のように見える。
 ところが、中心版は、原本の第184-196号を収録していない。これは、重大な欠陥である。
 中心版の欠落号は、上海古籍出版社版で補うことができる。中心版の編集者は、欠号があることを熟知しているはずだ。あとから刊行するのだから、欠落部分を先行刊行物から借りようとは考えなかったのか。そのあたりの事情は、不明だ。
 2種類の影印版は、しいて表現すれば相互補完している。別のことばでいえば、双方ともに欠陥をかかえていることになる。
 問題の発行年月日についてのべよう。
 上海古籍出版社版には、刊年の記載がないことを、再度、いっておく。
【図1】

































【図2】


 中心版は、第214号より「二月十六日図画日報」のように日付を柱に表示する。それは、原物にそのように印刷されているからだ。
 影印本にもかかわらず、日付のついた柱をわざわざ削除した上海古籍出版社版の編集方針が疑われる。削除するほうが手間がかかる。それほどの手間をかけて、かえって資料的価値を失う結果となっているのが不可解だ。
 それよりも、上海古籍出版社版と中心版の2種ともに表紙を収録していないのは、なぜなのか。
 ここに示しているとおりの表紙【図1】が存在している。「已酉七月初一日出版」と書かれているのは誰の目にも明らかだ。この記録が、なによりも重要であることは説明する必要もない。
 表紙が短冊状である理由は、その形に本紙もふたつ折りに畳んであることによる。
 表紙は、2色刷り。地の絵図には、ラッパを吹く天使と丸い世界地図のうえにいるライオンが描いてある(インクの色が薄いため複写では図柄を判別できない)。
 裏表紙も同様に2色刷りで、こちらは出版元である環球社の広告だ。
 すべての号に表紙と裏表紙(広告)がついている事実を指摘しておきたい。
 だから、2種類の影印本が、いずれも表紙と裏表紙の存在を無視しているのは、その理由がわからない。
 私は、以前から主張している。影印本が広告などを削除するのは、資料的価値を損なう行為である、と。
 『図画日報』についても、同じことを言わなければならないのは、不幸なことにちがいない。
 もしかすると、2種類ともに表紙がない状態で保存されているのだろうか。ノリづけされているから、ありえないことだとは思う。しかし、もしそうであれば、まことに残念なことである。

 『図画日報』第11号(1909.8.26)に、商務印書館印刷所の絵図【図2】が掲載されている。樽本照雄『初期商務印書館研究(増補版)』(清末小説研究会2004.5.1)に紹介があるので、そちらにゆずる。なお、徐小蛮「《図画日報》及其中的文化史料」(『出版史料(叢刊)』第2輯 2002.6)がある。             B

1)張若谷「紀元前五年上海北京画報之一瞥」上海通社編『上海研究資料続集』上海・中華書局有限公司1939.8。329頁
2)馮金牛「(『図画日報』)序」(『図画日報』第1冊 上海古籍出版社1999.6)を参照のこと。