『明清小説研究』の清末小説研究



樽 本 照 雄


　天津における１年足らずの生活が始まった1984年の４月、煙台道古籍書店で『中国近代文学研究』創刊号をみつけたときには驚きもし、喜んだものだ。近代文学研究の専門雑誌が発行されたということは、中国学界の関心がふたたびこの分野にも向けられることを意味している。のみならず、創刊号収録の論文のなかには、林崗「日本研究中国近代（清末）文学述略」がある。海外の研究動向にも注意をはらう姿勢は、それまでとは異なる新しいものがあるように感じたからだ。1977年、『清末小説研究』を日本で創刊して以来、反応らしいものもなく、孤立無援という情況にあっただけに、中国大陸での研究の進展は、私の期待を膨らませたといえるだろう。
　私は、翌年、中国から帰国したが、その年の12月に江蘇省社会科学院文学研究所編『明清小説研究』の創刊号を受け取った。誌名通りの研究専門雑誌である。見れば、こちらの創刊号にも「清末小説研究」欄が設けられている。初回を飾るのは、章培恒「《海上花列伝》与其以前的小説」*だ。『中国近代文学研究』に続く専門誌の創刊であり、しかも清末小説にも関心を示しているから、中国における清末小説研究の大々的な再開宣言であるとの印象を強めた。
　あれから数えて13年になる。その間、期待していた『中国近代文学研究』は、第３期（1985）で停刊した。『明清小説研究』だけが、現在にいたるまで発行を続け、本年中には、第50期をむかえるという。慶賀すべきことがらである。
　多数の論文のなかから、清末小説に関係するものを抜きだし、別に掲げる。本誌でおこなう声援のひとつだと考えてほしい。見れば、劉鉄雲と李伯元の盗用問題、『中国通俗小説総目提要』に連動した文章、第１回劉鉄雲と「老残遊記」学会、第１回中国近代文学国際学術研討会などなど、その時々の問題、行事を反映する文章がある。資料発掘から評価問題まで、中国における研究の進展情況がわかり興味深い。参考にすべき論文が多いのは、いうまでもない。
　研究雑誌の継続発行には、困難がつきまとう。さらなる努力のうえ、今後の一層の発展を祈っている。

*注：章培恒のこの文章は、『明清小説研究』が初出ではない。私は、『野草』第33号の「清末小説特集（その２）」の編集を担当したことがある。氏に原稿依頼をして送られてきたものが、この「《海上花列伝》与其以前的小説」だった。日本語に翻訳して掲載した。1984年２月だ。翻訳だけではもったいなので、原文のままを『清末小説研究』中文版として1983年12月に発表した。だから、該文の初出は、『明清小説研究』より２年も前の日本の『清末小説研究』となる。





『明清小説研究』掲載
清末小説関係論文目録



●第１輯1985.8
章　培恒○《海上花列伝》与其以前的小説
●第２輯1985.12
王　俊年○読《恨海》随想
●第３輯1986.4
斉　裕焜○資産階級革命在“天国”土地上的投影――評《洪秀全演義》
顧　　越○試論晩清的白話短篇小説
黄　　霖○呉〓人的小説論
●第４輯1986.12
張　　純○談談劉鶚与李伯元的一段文字案――兼与魏紹昌、汪家熔両先生商〓
（日）武田雅哉○（銭〓訳）従東海覚我徐念慈的《新法螺先生譚》説起
蔡　国梁○安徽官場現形記――評《帯印奇冤郭公伝》
方　　勝○“情”与小説創作――明清小説理論研究之一
江蘇省社会科学院文学研究所○中国通俗小説総目（未定稿）
【提要選刊】
陳遼「轟天雷」、張純「柳非煙」
●第５輯1987.6
【提要選刊】
蔡国梁「中東大戦演義｣｢優孟衣冠伝」、「帯印奇冤郭公伝」、呉錦潤「小額」
●第６輯1987.12
顧　　越○民族文化心理積淀的両種不同表現形態――《玉梨魂》与《玉嬌梨》比較之一
（捷）米倫娜・維林奇羅瓦○（趙〓虎摘訳　郭世緒校）論晩清小説的情節結構
翁　宗慶○談《続〓海花》中的〓樵孫
張　守謙○通俗小説提要知見録（楊世驥　晩清小説提要　二十八種あり）
【提要選刊】
張守謙「胡雪岩外伝」、郭興良「黄繍球」、「花神夢」、黄祖良「中国新女豪」、李沢平「剖心記」、高雪芳「五日縁（又名《鏡月夢》）」、陳年希「商界現形記」
●1988年１期（総７期）1988.1.30
趙　明政○黄小配的小説理論和小説創作
●1988年２期（総８期）1988.4.30
郭　興良○晩清後期小説之思辨性管窺
呉　錦潤○関於《羊石園演義》的評価問題
盛　思明○編好総目提要　促進小説研究――在中国古代通俗小説研討会開幕式
陳　　遼○関於提高明清小説研究水平的幾個問題
張穎、陳遼○編纂出版《明清章回説部大全》芻議
陳　年希○中国古代通俗小説研討会綜述
欧陽　健○《十年遊学記》非晩清小説
●1988年３期（総９輯）1988.7.30
楊　　策○評《海上塵天影》
蔡鉄鷹、陳民牛○首届劉鶚与《老残遊記》学術討論会述評
徐　保衛○《老残遊記》：一種現代化理論和一位思想者命運的検討
欧陽　健○《呉三桂演義》是晩清小説
袁　　進○創新与伝統――略談《老残遊記》的魅力
（蘇）謝曼諾夫○（王長友摘訳、王薇生校）論中国啓蒙時代的小説
斯　　欣○一部未見著録的晩清佳構――《剣花洞》（附：《剣花洞》西湖情侠著、東海閑人編、唐継標点）
●1988年４期（総10輯）1988.10.30
王　学鈞○《小説叢話》作者曼殊考辨
王　俊年○“呉〓人著《白話西廂記》”質疑
徐　允明○太谷学説的伝道書――《老残遊記》
毛　宗剛○論呉〓人的文学写情意識――兼析写情小説《恨海》
史　　平○簡論《呉三桂演義》
●1981年１期（総11輯）1989.1.30
欧陽　健○陸士諤的奇想之一：三国的改革――《新三国》析評
王偉康、呉平○評呉〓人的《新石頭記》
王　立興○《海上魂》《海外扶余》的作者与成書年代
●1989年２期（総12輯）1989.4.30
劉　　冬○《中国通俗小説総目提要》序
方　正耀○晩清小説的新聞特点
王　学鈞○論《老残遊記》的近代啓蒙主義民族特質
方　　勝○明清小説和旅遊
王　公望○《関隴》及其所刊登的小説――《魍魎世界》
●1989年３期（総13輯）1989.7.30
王　立興○呉〓人与《漢口日報》――対新発現的一組呉〓人材料的探討
○（点校）有関呉〓人在《漢口日報》時期資料二篇
黄　世仲○《宦海潮・凡例》（趙明政記）
●1989年第４期（総14期）1989.10.30
金　宏偉○清末四大譴責小説結構芸術初探
陳　年希○陸士諤家世、生平及著述新考
王　学鈞○“問題小説”発端――論《新中国未来記》及其群類
楊　　策○析《海上塵天影》的愛国維新思想
郭　長海○晩清小説作者姓名雑考
●1990年第１期（総15期）1990.1.30
蕭　相〓○中国小説的近代化
欧陽　健○評蔡元培的《新年夢》和陸士諤的《新中国》
●1990年第２期（総16期）1990.4.30
王　祖献○論鴉片戦争至甲午時期小説的特点
欧陽　健○“仙源蒼園”疑非張春帆
蕭　相〓○新野叟曝言
●1990年３・４期1990.10.30
王　学鈞○“二巳伝道”考辨――劉鶚与太谷学派関係論考之一
●1991年第１期（総19期）1991.3.1
張　俊才○近代小説総体研究綜述
欧陽　健○《中国通俗小説総目提要》補正三例
●1991年第２期（総20期）1991.6.1
陳　　遼○《轟天雷》、《〓海花》、《続〓海花》比較
王　学鈞○新見梁啓超小説論一則評介
王　同書○短評四則（一、新穎、辯証、填補空的《〓海花論稿》）
●1991年第３期（総21期）1991.9.1
李　成杭○晩清婦女問題小説的最好作品――《黄繍球》
劉　上生○《上海遊驂録》文本解読――它的主題結構和反諷芸術
●1991年第４期（総22期）1991.12.1
朱　世滋○談談《宦海風波》二集和《女界風流史》全本
蕭　宿栄○“准寧馨児”沁透的現代気息――呉〓人小説人物群像的文化底蘊
●1992年第１期（総第23期)1992.1.30
陳　年希○陸士諤家世、生平及著述新考補――兼談新発現的《雲間珠渓陸氏譜牒》
李華、何志平○論《〓海花》芸術形式的矛盾性
劉　　〓○説到頭、無非符号――《老残遊記》女性形象翠環浅析
●1992年第２期（総第24期）1992.6.1
盛　　成○翻訳《老残遊記》三十年後感言
王　　薇○近代小説研究的新収穫――首届中国近代文学国際学術研討会側記
顔廷亮、趙淑妍○稀見小説《鏡中影》介紹
●1992年第3、4期合刊（総第25期）
1992.12.1
郭　長海○蠡勺居士和藜床臥読生――《〓夕閑談》的両位訳者
王　学鈞○劉鶚的自辯状――《老残遊記》
顔廷亮、趙淑妍○黄世仲作品系年
鍾　　嬰○《革命鬼現形記》簡論
●1993年第１期（総第27期)1993.3.20
李　奇林○並非“狗尾”、“蛇足”――寓言小説《新鏡花縁》簡論
●1993年第２期（総第28期）1993.6.1
仁　　　○“羽衣女士”為梁啓超筆名
●1993年第３期（総第29期）1993.9.1
閭　小波○劉鶚与維新運動史料遺補
夢　　花○梁鳳儀談晩清小説
●1993年第４期（総第30期)1993.12.1
王　学鈞○《老残遊記》新解
●1994年第１期（総第31期）1994.3.1
劉　徳隆○関於撰写“晩清小説史”的思考
陳　業東○近代小説理論起点之我見
王　立興○一部首倡改革開放的小説――〓煕及其小説《醒世新編》論略
姜　東賦○《梼〓萃編》非晩清小説考
●1994年第２期（総第32期）1994.6.1
蕭　宿栄○茫然的選択与不尽的困惑――呉〓人的救世思想芻議
劉　　〓○哲学的特質――《老残遊記》及其「補篇」綜論
王　学鈞○《老残遊記》的禅智慧――逸雲釈論
劉　徳隆○晩清知識分子心態的写照――《新紀元》平議
（日）中村忠行○（胡天民訳）《新中国未来記》論考――日本文芸対中国文芸的影響之一例
欧陽　健○《中国通俗小説総目提要》補遺（工界偉人）
●1994年第３期（総第33期）1994.9.1
武禧（劉徳隆）○《中国通俗小説総目提要》補遺（女侠伝、一粒珠）
●1994年第４期（総第34期)1994.12.1
呉　家栄○阿英与晩清小説研究
彭　長卿○《忘山廬日記》中的李伯元資料
郭　長海○劉鉄雲事迹拾零
王　学鈞○銭錫宝史料拾零
●1995年第１期（総第35期）1995.3.1
王　学鈞○劉鶚与東文学社
劉　懐玉○《中国十二女傑演義》及其作者、校者、出版者
●1995年第２期（総第36期）1995.6.1
陳　　方○論中国近代烏托邦小説的意義
欧陽　健○銭江与《洪秀全演義》
劉　徳隆○晩清“訳述小説”初探
●1995年第３期（総第37期）1995.9.1
陳　業東○夏曽佑小説理論探微
左　鵬軍○黄遵憲論小説
彭　長卿○震鈞、李范之論泰州教
●1995年第４期（総38期）1995.12.1
任　百強○呉〓人家世鈎沈――呉〓人研究之一
王　学鈞○小説界革命与古典通俗小説文学典範
●1996年第１期（総39期）1996.3.1
王　子淳○試説〓姑
彭　長卿○亜東破佛師友録
●1996年第２期（総40期）1996.6.1
袁　　健○晩清白話短篇小説叙事体制的演変
呉　家栄○一曲弘揚愛国豪情的頌歌――《孤臣碧血記》評
劉　徳隆○《中国通俗小説総目提要》補遺（双霊魂、滑稽生）
●1996年第４期（総第42期)1996.12.1
王　学鈞○李伯元伝記研究的新進展
●1997年第１期（総第43期)1997.3.10
黄　麗珍○試論《老残遊記》的層次与結構
紀徳君、楊茜○論林〓対中西小説的比較研究及其価値
●1997年第２期（総第44期)1997.6.10
陳　　遼○論晩清小説中的歌詞
呉　錦潤○関於黄世仲的存世小説《黄粱夢》（残）
●1997年第３期（総第45期)1997.9.10
王　学鈞○晩清“小説界革命”与小説市場
于　潤〓○清末民初的短篇小説（清末民初小説書系序と同文）
晏　立豪○《砕琴楼》作者何諏考評
●1997年第４期（総46期）1997.12.10
張　　純○名人関係点滴（一、胡適与呉〓人、二、文廷式日記中的李伯元）
劉　徳隆○読《清代長篇諷刺小説研究》
王　学鈞○樽本照雄《新編清末民初小説目録》読後
●1998年第１期（総第47期）1998発行月日不記
王　学鈞○李伯元的“艶榜三科”――佚文与伝記