編集ノート



★商務印書館と金港堂の合弁解約書が発見されたことは、最近の出版研究界における珍しい事件のひとつだ
★中国と日本の合弁企業なのだから、解約書がそれぞれの会社に保管されていても不思議ではない。かりに、日本の金港堂から出てきたのであれば、普通のことだといえるかもしれない。ところが、そうではなかった。だいいち、金港堂そのものが消滅している。ここから文書の現物が出現する可能性はほとんどゼロだ。では、商務印書館にあったのかといえば、それも違う。なんと、上海の新聞に公表されていた。しかも、日本で見いだされた。二重の驚きだ。現物のままの写真版で解約書を見ることができようとは、想像もしていなかった。とうの昔になくなっているものだと考えていただけに、ア然としたのが正直なところだ
★解約書は、商務印書館にとっては内部文書である。よほどのことがなければ、外部に示すことなどないだろう。それを広告として新聞に掲載せざるをえない事情があった。意外な事実だといえる。該社をとりまく状況がいかに危機的なものであったかがわかる
★解約書があるならば、両社の合弁が成立したときに結んだ文書も、将来、まさかと思う場所から出てこないとも限らない。そもそも、契約書の全文が明らかになっていない事実に注目すべきなのだ。創業にかかわった関係者の、それも後年になってのわずかな言及をくりかえし引用してすませているのが、研究の現状である
★合弁契約書には、なにが書かれているのか。解約書の書き方からすれば、両社の出資金の額、その支払い期日、役員の人数、権利の明記か。意外と簡単に記されているかもしれない
★契約書を見ることができれば、従来不明であった部分に光が当たるはずだ。文書存在の可能性が残っている、と考えるだけでもすこし元気がでてくる。その日がくることを期待せずに待っている。