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郭延礼著 済南・山東教育出版社2007.9
2007.12.26
上にかかげた書影は、郭延礼氏の新著『文学経典的翻訳与解読――西方先哲的文化之旅』です。翻訳文学について62篇の短編を収録しています。
副題からもおわかりでしょう。郭氏の『自西徂東:先哲的文化之旅』(長沙・湖南人民出版社2001.4)と一部が重複しています。読者からの需要があるのでしょう。人気の高さがわかります。
2007.12.22
『清末小説研究』の既刊号が本ホームページに掲載されているが、残りもやるのか、というお便りをいただきました。
ご留意いただいてありがとうございます。
既刊号は、入手できません。ということで複写を掲げました。ただし、全部ではありません。
残りも掲載する予定ではいますが、実現するのはもっとあとのことになるでしょう。
簡単ですが、お知らせまで。
2007.12.16
『新編増補清末民初小説目録』に収録されていないこういう小説がある、とご教示をいただいております。
できるだけ取り入れるのが私の編集方針です。本ホームページにも訂正増補をかかげています。
左鵬軍氏からは、小説ではない作品、主として伝奇、雑劇が混入していると何度も同じ指摘を受けています。
このたびは、2007年10月天津で開催された中国近代小説研討会でも「《新編増補清末民初小説目録》補正」を発表されました。
そのご親切には感謝にたえません。早速、目録に注として追加させてもらいました。
すなわち、左鵬軍氏が指摘する伝奇、雑劇などの劇本は、私の目録から削除することはしません。それよりも阿英の「晩清戯曲録」からも積極的に取り入れて増補しているくらいです。
その理由は、劇本だからといって削除してしまうと目録としての機能が落ちる、と判断しているからです。名称は小説目録ですが、収録範囲をひろげています。
増補訂正中の清末民初小説目録は、翻訳を除くと16,515件の作品を収録しています(現在までに再版したものを含む)。左鵬軍氏のご指摘が73件で全体の0.4%になります。数の多寡が問題ではありません。ご教示をいただいているというのが貴重なのです。

〓赤}嵐著 天津社会科学院出版社2005.2
2007.12.12
上のような専門書が出版されていました。著者から贈呈されてはじめて知った次第です。感謝。
該書「第5章 林訳小説与意識形態、出版機構的関係」に興味深い指摘があります。
すなわち、「新文化運動中の林琴南は、その翻訳小説がすでに多年にわたり流行していたのだが、突然、新文化人からの大攻撃を受けてしまい、過去において重視された「文言」翻訳小説は、今となっては最も非難される点となってしまった」(181頁)。
林紓は、突然大攻撃を受ける、というのが私の見解と一致します。それが普通の考えだと思うのです。
しかし、その普通の考えが中国においては珍しい部類になるのですからおもしろい。
2007.12.9
『張元済全集』第1-3巻(北京・商務印書館2007.9)が発行されました。書信を集めています。金港堂の原亮三郎、三井物産の山本条太郎などへあてた書信が含まれていますから貴重です。
ただ、商務印書館とは深い関係のある林琴南関係の手紙が見当たりません。
林訳は「説部叢書」に収録され、林訳だけを特別に抜き出して「林訳小説叢書」1、2集で100種類を出版したほどです。張元済との文通がなかったとは考えられませんが。なにか事情があるのかどうか、そこまではわかりません。
2007.12.8
過日お知らせしました『官場現形記』海賊版裁判の続報です。
陳大康「歴史上的小説盗版案」(ウェブで見ました)がこの裁判に言及しています。
裁判の結果、「経理人席粋甫」だけが首かせ三日の処罰を受け、日本人の「知新社主人弼本氏」がまったく無傷なのはなぜなのか、と大変なご不満であります。
陳大康氏は、知新社が日本人の組織だと疑っていませんからそういう感想を抱くことになったらしい。
真相を知ればその疑問は氷解するのですが、残念なことでした。
私が近く、といっても順番待ちですから来年のことになりますが、文章を公表する予定にしています。お待ち下さい。
2007.11.23
林琴南と毛文鍾が漢訳した『双雄義死録』の原作は、フランスのユゴー『九十三年』であることは周知のことでしょう。
なにが有名かといえば、鄭振鐸がこの作品を名指しして原作を大幅に省略したと批判したからです。
その後、この批判が定着しているのは、ほかの翻訳と同じです。
林琴南らが翻訳のさいによった底本は何なのか。フランス語原本か英訳本なのか。
今まで誰も明らかにしていません。それほど困難な作業であるということができます。
林訳シェイクスピア、林訳イプセンで濡れ衣を着せた鄭振鐸が説明することです。もういちど考え直す必要があるのではないでしょうか。
調査しはじめましたが、底本探索は、やはりむつかしいです。
報告に値する成果がありましたら、その時はお知らせします。期待しないでお待ちください。
2007.11.22
中国近代文学研究『留得』第17期(2007.11)が刊行されています。
上海在住の劉徳隆氏が編集発行するミニコミ研究情報誌です。2007年10月、天津師範大学で開催された「全球化背景下的中国近代小説転型」学術研討会などを特集しています。
2007.10.31
林琴南とその共同翻訳者は、外国文学についてなにも知らない。これが定説のようになっています。
本当にそうなのでしょうか。
たとえば、『吟辺燕語』はラム姉弟の『シェイクスピア物語』の翻訳です。この『吟辺燕語』について謝天振、査明建主編『中国現代翻訳文学史(1898-1949)』(上海外語教育出版社2004.9)は、次のように説明しています。
「チャールズ・ラム姉弟の『シェイクスピア物語』を底本にし、シェイクスピアの原著を翻訳の底本にしなかったのは、ラム姉弟の『シェイクスピア物語』はシェイクスピアの戯曲にもとづいて書き換えたことを林紓が知らず、シェイクスピア詩歌創作の「もとの事柄[本事]」だと考えたからだ」(271頁)
つまり、ラムの物語からシェイクスピアの詩が生まれたと林琴南は誤解している、と批判するわけです。
しかし、それは謝天振らの勝手な決めつけでしかありません。
林序の最終部分にはっきりと書かれているのです。
「シェイクスピア物語は、伝本が多い。比較すると異同がはなはだ多く、取捨選択している。この本はわずかに20作を収録しているだけだ。私はそれらに新しく名をつけて題目とする[莎詩紀事。伝本至夥。互校頗有同異。且有去取。此本所収僅二十則。余一一製為新名。以標其目]」
「莎詩紀事」と明示してあるではありませんか。『シェイクスピア物語』を意味しています。しかも、林琴南らは、ラム版以外の『シェイクスピア物語』を手元において比較対照していることが明らかです。漢訳にあたって複数の版本を集めて十分に準備をおこなっています。シェイクスピア戯曲とは明確に区別しているのです。
研究者がこの重要部分をなぜ無視するのか、私の理解を超えているとしか言いようがありません。
彼らは自国翻訳界の先達林琴南をバカにするにもほどがあろうというものです。
2007.10.28
樽本『林紓冤罪事件簿』を書いてから深く思うことがあります。
中国の研究界では、該書は認められる可能性はありません。そう考え至って、逆になにかスッキリした気分です。
2007.10.27
過日、『繍像小説』についての追跡調査が発表されていることを紹介しました。
同じ号に『官場現形記』の海賊版についての論文が掲載されているのには、興味を引かれるところです。
劉穎慧「李伯元《官場現形記》版権訴訟始末」(『華東師範大学学報(哲学社会科学版)』第38巻第3期2006.5)といいます。
新聞広告を探し出して海賊版裁判を明らかにしているのが貴重です。探せばやはりあるのですね。
2007.10.13
『清末小説から』次号の予告をかかげます。
『清末小説から』第88号 2008.1.1
最初の漢訳「ドン・キホーテ」……樽本照雄
《哲理小説 哲學之禍》の原作……渡辺浩司
近代小説家張毅漢生平續考………郭 浩帆
網羅精英 任人唯才………張 英
狄平子小説資料一則………武 禧
晩清小説作者掃描(拾参)………武 禧
蔡元培を中傷した北京大学元教員…樽本照雄
2007.10.12
『清末小説』第30号を発行しました。
なお、樽本照雄『林紓冤罪事件簿』も発行しております。
従来の林琴南像が反転するのですから、お勧めしないわけにはいきません。
少部数印刷ですからお早めにどうぞ。
2007.10.11
林琴南の文章「論古文之不宜廃」をさがしていて、なかなか見つからなかった。林琴南資料集に収録されていないのは、なぜか。などと書いたことがあります。
すでに、新聞初出を影印で示したとおりに、今では簡単に読むことができるのはご存じでしょう。
ところが、ずっと昔から林琴南の該文は、読むことができたのですね。
程巍「為林琴南一辯」(『中国図書評論』2007年第9期ウェブ版)に興味深いことが指摘されています。
林琴南の「論古文之不宜廃」は、『胡適留学日記』1917年4月7日付に採録されている、と表示があるのです。
これは驚きました。林琴南関係の文献ばかりをさがしていて見つからなかったからです。胡適の日記に収録されているとは思わなかった。
たしかに架蔵の台湾商務印書館版(1947.11/1959.3台1版)1116-1117頁に見えます。題名も正しく書かれているのですね。
従来の林琴南資料になぜその指摘がなかったのか、よくわかりません。
そればかりか、程巍論文は、林紓の文章を間違っていると批判した胡適のほうが間違っているとのべて説得力があります。
林琴南再評価の動きは、これからひろがっていく気配がします。
2007.9.26
劉徳隆氏の編集する中国近代文学研究『留得』第14期(2007.7)および該誌第15期(2007.9)が発行されています。後者は、『劉尅キ《周易》講義』天津古籍出版社2007.4)などのほかに研究者の消息を掲載していて興味深いですね。
『清末小説』第30号を発行しました。
2007.9.24
『繍像小説』についての専門論文が発表されています。珍しい。
文迎霞「関於《繍像小説》的刊行、停刊和編者」(『華東師範大学学報(哲学社会科学版)』第38巻第3期2006.5)です。
普通のおざなりな解説ではありません。
刊行の遅延は、以前から問題になっていました。それを正面から論じて高度な内容を示しています。ですから、珍しいと感じるのです。
文迎霞がこの論文で使用したのは『新聞報』の広告です。これを利用することによって『繍像小説』の刊行が徐々に遅れていることをより精密に追跡することが可能となりました。
研究方法の勝利だということができます。
中国で新しい方法を駆使した新しい研究者が登場したことを私はうれしく思います。



済南・斉魯書社2007.7
2007.9.13
郭延礼『中国文学的変革:由古典走向現代』(済南・斉魯書社2007.7)が刊行されました。
上篇に近代文学研究、中篇に近代小説、下篇に詩歌関係の論考を集めています。
精力的に成果をあげている郭延礼教授に感服します。

北京は街中が工事現場。現代建築家の腕が発揮される
2007.8.31
曇ったように霞んでいますが、これが北京の大気汚染の実態です。
下に見える高架は、東三環中路とよばれる環状道路。現在環状線は6号まで完成しているとも。
すべてが来年の北京オリンピックに向けて進んでいます。テレビでもそればっかり。日本のことなど何も報道していません。そういえば、野球五輪プレ大会で中国が「銀牌獲得!」と大騒ぎをしているのですが、金牌はどこの国か一切ひとことも報道していない。いやー、おもしろいですね。


天安門広場にある臨時トイレの鉄板
2007.8.26
天安門広場に紅衛兵100万人が集まって毛沢東を賛美した。有名な事件です。
100万人が集まったら便所はどうする。そう思いませんか。
質問したら、がまんする、そこいらでやってしまう、などと答える。そんなバカな。
広場をかこんで外側に広い通路があります。上のような鉄板が敷き詰められている箇所がいくつもあって、これが臨時トイレなのです。
周りをテントかなにかで囲ってしまえばよろしい。鉄板を何枚かずらして取り外せば下に溝があって水が流れている(たぶん)。
あまり紹介されていないと思うので写真をかかげます。
2007.8.5
林琴南は、中国文学史ではどのように記述されているのか。興味深い課題です。
なにしろ、林訳シェイクスピア、林訳イプセンについて研究者の全員が間違っていた。
その事実を知っていますから、では文学史における林琴南のあつかいはどうなっているのか、というのは当然にいきつくところでしょう。
調べて驚きました。驚いたというよりも、やっぱり、というのが正確ですか。
ひとつの例外もなく、五四時期における反対者の代表として林琴南は確固たる地位?を確保しております。
情報源は、胡適、鄭振鐸あたりです。文学革命派は林琴南を反対派の代表に指名した人々です。その人々が書いた文章にもとづけば、林琴南は当然ながらそれにふさわしい地位しかあたえられません。
一方に偏った見方だ、という認識が完全に欠落している情況というのは、何なんでしょうか。
地域をとわず、中国文学研究界で一致しているというのが、気味が悪いですね。
本当に興味深いことです。
2007.8.1
『漢訳ホームズ論集』についてのお知らせ。
版元の在庫がなくなったそうです。ただし、重版にはならないでしょう。
わずかですが当研究会に在庫がございます。希望者におわけします。定価9千円(消費税なし、送料弊研究会負担)。在庫がなくなったらご容赦ください。
2007.7.14
刊行予告です。
●『清末小説』第30号
林訳シェイクスピア冤罪事件――林紓を罵る快楽 番外編…………樽本 照雄
《月月小説》掲載の翻訳小説の原作…渡辺 浩司
周作人漢訳アリ・ババ「侠女奴」の英文原本………樽本 照雄
敘事與重複:《老殘遊記》的研究……黎 活仁
一個“走方郎中”的醫藥筆墨――劉鶚醫藥著作之一《温病條辨歌括》概述…………劉 徳隆
劉鶚的祖居及寓所小考…………………劉 徳樞
邵振華及其《侠義佳人》………………黄 錦珠
商務印書館《最新教科書》日本校訂人署名及其他………張 人鳳
李伯元遺稿(9)――李錫奇『南亭回憶録』より
2007.7.11
中国近代小説研究目録の詳細なものが刊行されました。
韓偉表著『中国近代小説研究史論』(済南・斉魯書社2006.12)です。
該書の半分を「三、中国近代小説研究論著索引(1840-2005)」が占めています。
2007.6.25
『清末小説から』次号の予告をかかげます。
『清末小説から』第87号 2007.10.1
魯迅による林紓冤罪事件………樽本照雄
《亞森羅蘋之勁敵》と《竊〓案》の原作………渡辺浩司
近代翻譯文學家陳鴻璧女士生平考…李 勇
晩清小説作者掃描(拾弐)……武 禧

Chaucer THE CANTERBURY TALES
2007.6.21
林訳チョーサー Chaucer に「カンタベリー物語 THE CANTERBURY TALES」があります。
馬泰来の調査が示すように、クラーク Charles Cowden Clarke が小説化した版本が底本です。
その中のひとつが「加木林」(『小説世界』第12巻第13号1925.12.25)だといいます(私は該作品をみてません)。
馬泰来がその原作品を「The Cook's Tale: Gamelin」と説明するのは正しいのです。クラーク版には収録されているのですから。
ところが、該作品がチョーサーの原作には存在しないのは不思議なことですね。
原作は、中世イギリスの作者不詳「ガメリン GAMELYN」です。クラークが小説化するにあたって「カンタベリー物語」に挿入しました。
馬泰来はそこまでは説明していません。調べるのにすこし時間がかかった理由です。
2007.6.4
樽本照雄『清末小説研究集稿』の書評が発表されました。ありがとうございます。
ご紹介しましょう。
范伯群「為転型期的中国文学史破解疑案――推介樽本照雄的《清末小説研究集稿》」『中国現代文学研究叢刊』2007年第3期(総第116期) 月日不記
2007.6.1
『清末小説』第30号(本年10月発行予定)を鋭意編集中です。
その一部をご紹介します。あくまでも中間報告ですのでご注意ください。
『清末小説』第30号 予定の一部
林訳シェイクスピア冤罪事件――林紓を罵る快楽 番外編……樽本 照雄
敘事與重複:《老殘遊記》的研究……黎 活仁
一個“走方郎中”的醫藥筆墨――劉鶚醫藥著作之一《温病條辨歌括》概述………劉 徳隆
劉鶚的祖居及寓所小考…………………劉 徳樞
商務印書館《最新教科書》日本校訂人署名及其他………張 人鳳
そのほか
2007.5.13
林琴南の文章について訂正をひとつ。
3月18日の本ホームページで掲げました林琴南の「驢馬市引東洋車之人」は、「騾馬市」の誤植です。
よって日本語訳を「騾馬市大街で人力車を引く者」と訂正します。
2007.5.1
林琴南の問題にかかりきりです。
林訳シェイクスピアは、英文小説化本にもとづいている。『清末小説から』においてすでに速報しました。
予告しておりますように、同じことが林訳イプセンについても起こっています。
林琴南は、原作の戯曲をかってに小説化して翻訳したというのは濡れ衣です。
さらには、「引車売漿之徒」があります。林琴南が蔡元培の父親を当てこすったというのは、ウソです。
魯迅はその事を知っていて日本人の山上正義にデマを教えました。
林琴南について、いくつもの濡れ衣が発見されたということができます。
それだけではありません。林訳スペンサー、ドン・キホーテも同様です。
これは、偶然でしょうか。
林琴南については、この先があるのです。従来は、この手前で一方的に大々的に林琴南を批判していた。
長かったですね。ほとんど90年間ですよ。
一歩なかに足を踏み入れると、そこは真っ黒なドロドロが待ち受けていました。
現在、その大掃除を終えたところです。
掃除といっても暗闇に光を導きいれたというだけにすぎませんが。
ご期待下さい。
2007.4.1
『清末小説から』次号の予告をかかげます。
『清末小説から』第86号 2007.7.1
林訳イプセン冤罪事件………樽本照雄
無中生有的最早林譯《葛利佛利葛》…馬 泰來
ビーストンの謎………渡辺浩司
“夢湘先生”點滴………武 禧
晩清小説作者掃描(拾壱)………武 禧
そのほか
2007.3.18
林琴南の蔡元培あて書簡に見える「引車売漿之徒」に関連します。
林は、蔡元培の父親をあてこすってはいない、という考えは述べました。
林琴南は、有名な短編小説「妖夢」を『新申報』(1919.3.18-22。一説に3.19-23)に発表しています。
有名というのは、この小説で蔡元培を「元緒=亀」と罵っているからです。
その著者附記に、つぎのように書いています。
「白話でもって白話を教えるだけで、その道理がどこから出てくるのかを知らなければ、ロバ馬市場の人間や人力車夫でも白話を知っているのだからどうして教える必要があろうか[若但以白話教白話不知理之所従出,則驢馬市引東洋車之人,亦知白話,何用教耶?]」(5月13日に訂正あり)
当然ながら、人力車夫が蔡元培の父親であるなどとは、林紓はまったく考えていません。
古文を廃止するな、というのが林琴南の主張です。彼は白話に反対していません。ここが、誤解されるところです。
つけくわえますが、小説は公開書簡とは違います。小説では何をどのように書いてもよろしい。
2007.2.26
『清末小説から』第85号を掲げました。
2007.2.25
樽本照雄『清末翻訳小説論集』を発行しました。
2007.2.18
魯迅を擁護するご意見があります。
周楠本が書いているように、蔡元培の父に関するデマは、不注意で山上正義に知らせたもの。ゆえに、魯迅には責任がない。
魯迅は正しい、林琴南は悪い。どうも、この考えが確立しており再考の余地はなさそうですね。
不注意であろうとなかろうと、魯迅が蔡元培の父についてのデマを日本人に書いて知らせたのが、問題の根本にあるのです。
デマを林琴南と結びつけている研究者の方に問題がある、といいなおしてもよろしい。
デマは、林琴南とはなんの関係もありません。いかがでしょうか。
2007.2.17
ウェブで朱正「魯迅研究的新収穫」(日付不記 http://big5.cctv.com/entertainment/culture/0625/61.html)を見つけました。周楠本編注『魯迅集』小説散文巻、雑文巻を紹介するものです。
その小説散文巻に「引車売漿者流」に関係することが書いてあるらしい。
思孟「蔡元培伝」を発掘したのは、周楠本だとわかります。(のちに孫玉石であることが判明)
思孟の文章(蔡元培の父親についてのウソ)が魯迅の印象に残って、デマであることに注意せず、山上正義にそのまま伝えた。これが周楠本の結論です。
私の考えとは違います。
くりかえします。魯迅は蔡元培と親しくしかも同郷人です。その魯迅が蔡元培の父親が銭荘の支配人であったことを知らないわけがありません。
もうひとつ問題があります。林琴南が「引車売漿之徒」で蔡元培の父を当てこすったのではないという点を明確にしていません。
2007.2.16
「引車売漿者流」問題です。
2005年版『魯迅全集』の注に加筆があります。
中国では、魯迅に関係する文献が地道に発掘されているのには感心するのです。
さて、注です。山上正義あて魯迅の手紙が引用されている部分までは同文です。ただし、以下が新しい。
すなわち、蔡元培の父親が「豆乳売りを生業にしていた[以売漿為業]」というこのデマは、思孟の「息邪」(一名「北京大学鋳鼎録」)のなかの「蔡元培伝」(1919年8月7日、8日の『公言報』に掲載)から出ている。
これは、新しい発見です。
重要なことがふたつあります。
ひとつは、「引車売漿之徒」を使った林琴南の文章は、思孟のものよりもずっと早くに公表されていること。林琴南は、蔡元培の父親であるとは言っていません。書いたのは、あとの思孟です。
林琴南は書いていませんから、濡れ衣ですね。
もうひとつは、思孟の文章を魯迅が読んだ証拠があります。
魯迅は蔡元培と同郷ですから蔡の父親が「引車売漿者流」ではないことは先刻承知です。しかも、思孟がデマを書いたことも知っています。
ところが魯迅は、日本人の山上正義あてに、なに食わぬ顔をして蔡元培の父についてのデマを書き送ったというわけ。
結論。魯迅が引き起こした林琴南冤罪事件です。
2007.2.11
林琴南がらみです。
林訳小説批判は、冤罪事件だということが判明しつつあります。
そういう目で従来の評論を見直すと、奇妙なことに出会うのです。
たとえば、林琴南が「引車売漿者流」と書いたのは、蔡元培の「家柄」をあてこすってのものだ、という例の有名な話です。「車を引いて豆乳を売り歩くやから」は蔡元培の父親を指すというもの。
なにしろ魯迅自身が山上正義にあてた手紙のなかでそのように説明しているのですから。
以後、中国の『魯迅全集』でも山上あての魯迅の手紙を根拠にして説明しています。
父親の職業までひっぱってきて蔡元培を攻撃するか。卑劣な林琴南である。文学革命に反対するだけの悪玉だからそれくらいのことをして当然だ。そういう判断ではないでしょうか。先入観ですね。
魯迅の理解がそうであったのは事実です。ご本人がそう書いている。しかし、林琴南がどういう意味でそれを使用したかは別問題であるということです。
現在まで、魯迅が理解したように林琴南も考えていた、ということになっています。これは、おかしいのではないでしょうか。魯迅は魯迅だし、林琴南は林琴南で別でしょう。

北京大学出版社2007.1
2007.2.7
范伯群『中国現代通俗文学史(挿図本)』(北京大学出版社2007.1)を紹介します。
清末から中華民国に刊行された大衆小説の歴史を記述して詳細です。
多くの図版が挿入されていますから「挿図本」と称しています。見応え読み応えがあるのはいうまでもありません。
目次をかかげた方が、本書の内容を理解しやすいと思います。
目 録
序一 賈植芳
序二 李欧梵
緒 論
第1章 中国現代通俗小説的萌発
第2章 19世紀末20世紀初上海小報潮
第3章 1902-1907年:中国現代文学期刊第一波
第4章 1903年:晩清譴責小説“啓動”年
第5章 1906年後:写情小説与哀情小説的湧現
第6章 1909-1917年:中国現代文学期刊第二波
第7章 改朝換代与宮〓門韋}歴史演義小説興盛之関聯
第8章 1916年:“問題小説”之引進与“上海黒幕”之徴集
第9章 1921年:《小説月報》的改組与通俗期刊第三波高潮
第10章 20年代狭邪小説“人情”、“人道”化的新路
第11章 20年代民国武侠小説的奠基及早期作家
第12章 為都市伝真留影的20年代社会小説作家群
第13章 都市郷土小説――現代通俗文学的一大特色
第14章 20世紀20年代電影熱与画報熱
第15章 20世紀20年代偵探小説中国化的定格
第16章 20、30年代之交、北方通俗文学的迅速崛起
第17章 抗戦勝利前後的北方武侠小説
第18章 層次不等的30、40年代上海社会小説家
第19章 40年代新市民小説的通俗性
第20章 歴史的経験教訓還需作進一歩探討
覓照記(代後記)
2007.1.25
林訳問題はどうなっているのか、というご質問です。
近く、「林訳イプセン冤罪事件」「林訳シェイクスピア冤罪事件」をそれぞれ『清末小説から』と『清末小説』に掲載する予定にしております。
そのほかの林訳作品についても、現在、検討を進めているところです。
従来から存在する林訳批判は、その根底のところに大きな欠陥があるように思います。
すなわち、いくつかの作品については林[糸予]が使用した底本を特定せず、批判だけが先行しているという事実がある。
私にいわせれば、これは研究ではありません。根拠のないただの「罵り」ですね。ですから、私はこれを称して冤罪事件といいます。
昨年からひきつづいて驚きの連続、というのが実情です。

2007.1.2
上に掲げたのは、セルバンテス原作、林紓(琴南)、陳家麟同訳『魔侠伝』巻上下(2冊上海商務印書館1922.3 説部叢書第4集第18編)です。
巻下の表紙の方が巻上よりきれいなのでこちらを選びました。
「ドン・キホーテ」なのですが、それを想像させない絵柄ですね。
普通はロシナンテにまたがり槍を構えたドン・キホーテが描かれるところなのですが。
林紓の漢訳セルバンテスも、林訳冤罪事件のひとつに数えてよさそうな気がしています。
2007.1.1
本年もよろしくお願いいたします。
『清末小説から』次号の予告をかかげます。
『清末小説から』第85号 2007.4.1
林訳シェイクスピア冤罪事件(要旨)…樽本照雄
林訳小説評価の最近………樽本照雄
樽本論文補遺3題………沢本香子
『漢訳ホームズ論集』………樽本照雄
晩清小説作者掃描(拾)………武 禧
そのほか
はじめに
中国の清末小説(しんまつ しょうせつ)を専門に研究している会です。清末とは、清朝末期のことを指します。厳密にいえば、「中国の」と付ける必要はありません。清末は、中国にしか存在しませんから。まあ、丁寧に言っております、くらいのことですのでご了承ください。
年代でいえば1900年代から1911年の辛亥革命をへて五四文学前です。
日本ならば、明治30年代から大正初期にあたりますか。
というわけで、清末小説を専門にしているといっても、中華民国初期の小説も含んでおりますので、誤解のないようにお願いいたします。
それならば、いっそのこと「清末民初小説研究」と称してもいいようなものの、長くなるでしょう。
研究会と称していますが、組織はありません。
定期刊行物として年刊の『清末小説(しんまつしょうせつ)』と季刊の『清末小説から』を発行することが研究会の目的です。
『清末小説』と『清末小説から』の最新号所収の論文は、いくつかを本ホームページで読むことができます。
なお、『清末小説』のバックナンバーのいくつかは、中国書籍専門店で購入することができるかもしれません。『清末小説から』は、本ホームページのものを印刷してください。紙媒体では、基本的に発行しておりません。どうしても、という人は、国立国会図書館で読むことが可能です。
清末小説研究会の出版物は、中国書籍専門店(東方書店、燎原書店、朋友書店、福岡中国書店など)で購入できます。ご注文ください。
これまでの研究会活動を紹介するかわりに雑誌『清末小説(研究)』の編集ノートをあつめた編集ノート集をかかげます。おおよその活動が理解できるでしょう。
研究をめざす人を対象に『清末小説研究ガイド2005』(2004)を発行しています。残念ながら、在庫はありません。清末小説研究資料叢書は、現在、10まで発行しています。発行部数そのものが少ないので、短期間で在庫なしになる可能性が高いのです。