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田雁著、小野寺史郎・古谷創訳、中村元哉解説『近代中国の日本書翻訳出版史』
東京大学出版会2020.12.9

2020.12.29
 書名に引かれて購入しました。
 文学を含んだ総合的な日本書翻訳出版史です。
 ところが「近代中国」といいながら2011年までを含ませています。新しい概念を提出しているらしい(笑)。
 冗談はさておいて該翻訳書の原本が田雁『日文図書漢訳出版史』(南京大学出版社2017.12)であると知れば(説明はありません)日本語訳名のつけ方が不適切でしょう。せめて「近現代中国の……」とすればよかったかと。
 よい点は商務印書館が日本の金港堂と合弁会社であったことを説明しているところです(主として第2章題3節「(2)商務印書館の栄光」110-115頁ほか)。
 たぶん鄒振環「商務印書館与金港堂――20世紀初中日的一次成功合資」(『出版史料』1992年第4期(総第30期)1992.12)あたりを根拠にしているのでしょう。
 現在中国では商務印書館と日本金港堂の合弁研究は全面的には解禁されていません。表面をなでているだけなのは理解できます。
 そこでここは日本語翻訳者の方で詳細な研究が日本で公表されていることを注記してもよかった。そうすることは注記の方針からはずれますか。
 樽本『初期商務印書館研究(増補版)』2016.5.1 電字版
 樽本『商務印書館研究論集(増補版)』2016.5.15 電字版
 両書とも本研究会ウェブサイトでダウンロードすることができます。知らないのでしたらしかたがありません。
 おおよその内容は以下のとおり。
 =================================
 序 章、
 第1章 日本書翻訳事業の勃興――1719年〜1911年
  /1日本観の変化
  /2清末の改革と中国語訳日本書
  /3東京から上海へ――翻訳の中心地の移動
  /4独擅場の時代
  /おわりに、
 第2章 戦争の影の下の日本書翻訳――1912年〜1949年、
 第3章 テキストと訳者の選別――1949年〜1976年、
 第4章 転換期の好機と挫折――1977年〜1999年、
 第5章 翻訳出版における新要素――2000年〜2011年、
 終 章 中国語訳日本書の社会的影響と意義、
 注、解説 中村元哉、訳者からの補足 小野寺史郎




付建舟+胡全章『文学的双重変革――清末民初文学史』
杭州・浙江工商大学出版社2020.1 中国新文学発展史研究叢書

2020.12.18
 内容は以下のとおり。
 =================================
 高 玉「総序」、
 緒 論、
 第1章 清末民初的白話文運動、
 第2章 蛻旧変新的新小説、
 第3章 戯劇改良与新潮演劇、
 第4章 新旧詩歌的起伏消長、
 第5章 各具特色的諸体散文、
 第6章 清末民初的翻訳文学、
 参考文献、
 後 記




范軍主編『中国近現代出版企業制度研究』
北京・中国伝媒大学出版社2020.5

2020.12.16
 以下の論文を収録します。
 =================================
 范 軍「試論中国出版企業制度的近代化転型」、
 范軍+沈東山「20世紀二三十年代新聞出版企業的会計改革」、
 范軍+何国梅「試論上海商務印書館的科学化管理制度」、
 范軍+欧陽敏「試論晩清民国時期商務印書館的編輯制度」、
 欧陽敏「論民国時期中華書局的産権制度」、
 欧陽敏「上海中華書局法人治理結構述略」、
 欧陽敏「民国時期中華書局的企業管理制度」、
 范軍+欧陽敏「論近現代傑出出版人的企業家精神」、
 范 軍+欧陽敏「中国近代出版大家夏瑞芳的企業家精神」、
 范 軍「夏瑞芳:中国近現代出版企業第一人」、
 范 軍「中国近現代出版制度史料経眼録」など




王軍平『規範、慣習与訳者抉擇――晩清(1895-1911)翻訳規範及訳者行為研究』
北京・中国社会科学出版社2020.9

2020.12.15
 内容は以下のとおり。
 =================================
 何剛強「序」、
 緒 論、
 第1章 翻訳過程研究縦覧、
 第2章 訳者作為社会固体的翻訳抉擇模式、
 第3章 晩清非整合社会語境下翻訳場域中的多元規範、
 第4章 多元規範下的訳者慣習差異及其抉擇過程、
 第5章 規範〓変与訳者慣習互動中的訳者抉擇過程、
 結 論、
 参考文献



 
FORTUNE/} DU BOISGOBEY 原著、英訳者不記“THE OLD AGE OF LECOQ, THE DETECTIVE, AND, AN OMNIBUS MYSTERY.”Vol.II
LONDON : VIZETELLY & CO. 1886. internet archive ほか所収

2020.12.7
 英人ブラック演述『車中の毒針』の英訳がもうひとつありました。上記のとおりです。




F. DU BOISGOBEY 原著、S. Lee 英訳“The Mystery of an Omnibus.”
Seaside Library Vol.LX. No.1225, New York:GEORGE MUNRO PUBLISHER, 1882. Libraery of Congress 所蔵

2020.12.4
 英人ブラック演述『車中の毒針』の原作について新しい発見がありました。報告します。
 右にフランス語原作の指摘があります。Ian McArthur ウェブサイト Kairakutei Black(http://henryblack.com.au)です。
 それにより英語原作を見つけました。次を追加します。
 底本は F. DU BOISGOBEY 原著、S. Lee 英訳“The Mystery of an Omnibus.”Seaside Library Vol.LX. No.1225, New York:GEORGE MUNRO PUBLISHER, 1882. Libraery of Congress所蔵(フランス語原作:Fortune/} du Boisgobey,“Le Crime de l'Omnibus.”1881. Ian McArthur による)



 
(英)勃拉錫克著 呉檮訳『(偵探小説)車中毒針』
商務印書館 乙巳12(1905)/1913.12四版 説部叢書初集第30編

伊藤秀雄編『快楽亭ブラック集』
ちくま文庫2005.5.10

2020.12.1
 過日、『車中毒針』について小本小説を紹介しました。
 原作は(石井)ブラック(HENRY JAMES BLACK 快楽亭ブラック)演述、今村次郎速記『(探偵小説)車中の毒針』(三友社1891.10.19)です。
 どうやら誤解があるらしい。英人ブラックの英語原作があると考えるのは間違いです。 2020.12.4 ブラック本人の英語原作ではないことを確認します。彼がもとづいた原作がありました。↑上記のように追加します。
 ブラック「演述」とあります。日本に帰化したブラックが日本語で述べたもの。それを今村次郎が速記しました。
 ちくま文庫にまとめられるくらいに日本では知られた外国人なのです。






2020.11.25
 『清末小説から』第140号を公開中です。
 既刊は『清末小説から』へどうぞ。




(美)葉凱蒂(CATHERINE YEH)、楊可訳『晩清政治小説:一種世界性文学類型的遷移』
北京・生活・読書・新知三聯書店2020.8

2020.11.16
 内容は以下のとおり。
 =================================
 致 謝、
 序、
 上篇 一種世界性文学類型的形成:政治小説、
 1 形成核心、2 全球性遷流:遠東、
 下篇 把世界帯回家:中国政治小説、
 3 文学形式的遷流:跨文化流動和日本模式、
 4 『新政』与新的公共領域、
 5 女性和新的中国、
 6 尋找新的英雄、
 7 開篇的開篇:楔子、
 8 結 語、
 参考文献




張邦彦『精神的複調:近代中国的催眠術与大衆科学』
台湾・聯経出帆事業股▲有限公司2020.4

2020.11.12
 催眠術に関係して以下の作品に言及しています。
 徐念慈「新法螺先生譚」、荒江釣叟「月球殖民地小説」(71頁)、「電術奇談」(104頁)、徐卓呆「秘密室」(106頁)など。



 
井上圓了『妖怪学講義』合本第4冊 心理学部門
1896.6.14増補再版

2020.11.11
 その「第4講 心術篇 第39節(動物電気論)」(左写真)が興味深いのです。
 「動物電気」とは見慣れない。しかし明治時代に使われていた単語であることがわかります。すなわち催眠術のことです。
 この「動物電気」が漢訳小説『薄命花』に「催眠術」と一緒に出ています。ただし私が見たのは1ヵ所のみ。ほかの小説作品に出ているのかどうかは今のところ不明です。
 催眠術つながりで幽芳『新聞賣子』があるのもおもしろい。



 
菊池幽芳『新聞賣子』前編、大阪駸々堂 明治33年


尾竹国弌画

 
菊池幽芳『新聞賣子』後編、大阪駸々堂 明治33年


尾竹国弌画


『大阪毎日新聞』1897.3.17「新聞賣子」挿絵は坂田耕雪画


2020.11.1
 (日)菊池幽芳氏元著 方慶周訳述 我仏山人(呉趼人)衍義 知新主人(周桂笙)評点『(写情小説)電術奇談(一名催眠術)』24回、『新小説』8号-2年6号(18号) 光緒29.8.15(1903.10.5)-刊年不記[光緒31.6]
 中国で著名な『電術奇談』は上に掲げた幽芳『新聞賣子』を重訳したものです。これが原本ですからご紹介しました。
 『新聞賣子』は国立国会図書館デジタルコレクションに収録されていますから読むことは簡単です。
 初出の「新聞賣子」75回は『大阪毎日新聞』1897.1.1-3.25に連載されました。連載の挿絵も掲げます。
 中国の学界では該漢訳『電術奇談』を「実為再度創作」と説明する研究者が多いです。もしそう説明する文章を目にしたら先行文献を引用したと考えて間違いないでしょう。
 幽芳日訳と漢訳『電術奇談』の本文を比較対照したことがない人はそうしがちなのです。理解してあげてください。
 漢訳『電術奇談』は幽芳日訳にほぼ忠実な翻訳であること重ねて指摘しておきます。




『書論』第46号 特集 二王学の試み・長尾雨山
2020.10.10

2020.10.30
 長尾雨山については以下のとおり。
 =================================
 長尾雨山青壮年期の詩論と詩作――初歩的考察(1)……柴田清継
 長尾雨山と徐園集……松村茂樹
 長尾雨山と鄭孝胥……呉孟晋
 【資料採録】能田婉子『歌集一茎九花蘭』「あとがき」(1)……杉村邦彦編
 三野二山の生涯と長尾雨山・大西見山との交友(2)……田淵元博
 『書論』第45号「特集・長尾雨山」を読む……田淵元博、太田剛、柴田清継、林淳、大工原美智子、田山泰三、松村茂樹、今西智久、成田健太郎、松本丘、福永昭、細谷正吉




柳川春葉「虚無党の女」
『太陽』10巻11号1904.8.1
  
(日)柳川春葉著、呉檮訳『薄命花』
上海・商務印書館1907.6/1917.4六版 袖珍小説

2020.10.18
 上記のとおりです。
 『薄命花』の表紙はネットから引用しました。奥付は影印本です。
 (Xilao LI)Yanagawa's A Nihilist Lady を参考にしています。



 
(英)勃拉錫克著 呉檮訳『(偵探小説)車中毒針』
商務印書館(1912.8/1914.9三版)小本小説

上海・商務印書館 説部叢書1=30

2020.10.17
 小本小説は表紙、奥付なし。14回のうち第13回までしかない(破損本)。おまけに虫食いという悪状態です。
 その版型から商務印書館の小本小説だとわかります。参考までに説部叢書初集第30編(乙巳12(1905)/1913.12四版)の本文も掲げておきます。
 原作は(石井)ブラック(HENRY JAMES BLACK 快楽亭ブラック)演述、今村次郎速記『(探偵小説)車中の毒針』(三友社1891.10.19)です。




何敏『晩清至五四文学翻訳与民俗形象構建』
北京・九州出版社2020.4

2020.10.16
 内容は以下のとおり。
 =================================
 王 寧「序」、
 緒 論、
 第1章 翻訳与民族形塑、
 第2章 想像少年与形塑中国(梁啓超≪十五小豪傑≫、林紓≪鷹梯小豪傑≫、魯迅)、
 第3章 発現女性与民俗構形(梁啓超、林紓、≪蛇女士伝≫、≪奇女格露枝小伝≫、魯迅)、
 第4章 晩清至五四典型的民族符号(烏托邦小説、≪新石頭記≫、林訳≪伊索寓言≫、魯迅)、
 結語 百年吶喊有先声、
 参考書目




2020.10.13
 『清末小説から』第140号 の目次予告です。近く公表することをお知らせします。
 =================================
 林訳の改編者表記――瀬戸博士の嘘と捏造………樽本照雄
 莎士比原著『盗花』について………荒井由美
 『紅涙影』の原作(誤解の系譜3)………樽本照雄
 そのほか



 
桑原啓一纂訳『新編希臘歴史』
経済雑誌社1893.10.10
 
(日)桑原啓一纂著、中国国民叢書社訳述『希臘史』
上海・上海商務印書館 光緒二十九(1903)年三月

2020.10.2
 上の桑原啓一纂訳『新編希臘歴史』が漢訳されて下の『希臘史』になりました。
 桑原第3編第4章「セルモピリー及びアルテミジアムの戦争」が漢訳第3編第4章「賽爾木皮里及亜爾台迷斉恩之戦争」です。
 絵図はギリシア・テルモピュライの戦いを描いたもの。紀元前480年、ペルシアの大軍数十万人を迎撃する手前のスパルタ軍主力の300名でした。
 スパルタ王レオニダス(肖像)がギリシア軍を率い地形を利用して持ちこたえます。ペルシア軍に間道があることを教えた裏切り者がいました。背後に回りこまれギリシア軍はついに敗退するという結末です。




(美)魏愛蓮(ELLEN WIDMER)著、陳暢涌訳『小説之家:・煕、・〓兄弟与晩清新女性』
北京・社会科学文献出版社・歴史学分社2020.7

2020.10.1
 内容は以下のとおり。
 =================================
 中文版自序、
 導言:脆弱的伝承、
 第1章 変局中的文学〓伴、
 第2章 ・煕的生平、子女与写作、
 第3章 ・〓的一生和他的狭邪筆記、
 第4章 ・〓的小説作品、
 第5章 作為記者的・〓、
 結 論、
 附録:王慶棣、・嗣曾、・煕、・〓主要作品、
 参考文献、
 陳暢涌「訳後記」



 
英訳 JULES VERNE A FLOATING CITY   思軒日訳 影印本        

 
奥 付               包天笑『碧海情波記』影印本


2020.9.17
 包天笑訳『碧海情波記』(上海・秋星社 1910.9)の底本と原作について報告します。
 本文は呉門天笑生訳ですが奥付は「著者 天笑生」というちぐはぐさ。
 底本は仏国ビユールヴエルーヌ著、森田思軒訳「大東号航海日記」全7回(『国民小説』(第1)民友社1890.10.30所収)です。
 初出は『国民之友』第14-20号 1888.1.20-4.20 連載。
 思軒は英訳 JULES VERNE“A FLOATING CITY”1874にもとづきました。フランス語原書は“UNE VILLE FLOTTANTE”1871です。




陳建徳『海潮大声起木鐸――陸建徳談晩清人物』
上海・東方出版中心2017.11

2020.9.15
 内容は以下のとおり。
 =================================
 自 序、
 海潮大声起木鐸――再談林紓的訳述与漸進思想、
 文化交流中“二三流者”的非凡意義――略説林紓翻訳小説中的通俗作品、
 再説≪荊生≫,兼及運動之術、
 不妨略剖売文銭――“企業家”林紓与慈善事業、
 “周道如砥,其直如矢”?――護国戦争前後厳復与梁啓超的“対話”、
 附 録:陸建徳談民国初年的国家治理



 

 
林紓訳述、張治編『林訳小説精選十種』
北京・商務印書館2020.6

2020.9.14
 影印本です。張治「解説」が1冊あります。しかし表紙は「林訳小説精選十種」だけ。内容を見るまで「解説」であるとはわかりません。便宜的に「解説」と称してきましょう。
 以下の作品を収録します。
 茶花女遺事、三千年艶尸記、滑稽外史、大食故宮餘載、海外軒渠録、雙雄義死録、魔侠伝、羅刹因果録、撒克遜劫後英雄略、黒太子南征録
 なお、附録として「秋灯譚屑」を表紙にした筆記本(ノート)がありますが自分で何かを記述しろというわけでしょうか。よくわかりません。






2020.8.27
 『清末小説から』第139号を公開中です。
 既刊は『清末小説から』へどうぞ。




潘紅『哈葛徳小説在晩清:話語意義与西方認知』
上海・復旦大学出版社2019.11 福州大学哲学社会科学文庫 福州大学跨文化話語研究系列一

2020.8.21
 内容は以下のとおり。
 =================================
 潘 紅「総序」、
 譚学純「序 文学翻訳的修辞空間」、
 緒 論、
 第1章 作為話語実践的文学和文学翻訳、
 第2章 哈葛徳小説:大英英国拡張的文化寓言、
 第3章 哈葛徳小説≪〓≫:追尋母題下的世界文明秩序探尋、
 第4章 哈葛徳小説走入中国:≪時務報≫訳介≪長生術≫的意義、
 第5章 林訳小説:林紓的救国之道、
 第6章 ≪三千年艶尸記≫:林訳哈葛徳小説 She 的話語意義、
 第7章 世紀末的価値追尋:哈葛徳小説 Joan Haste 与女性生命意義言説、
 第8章 包天笑与≪迦因小伝≫:新旧之間的現代性追求、
 第9章 林訳≪迦茵小伝≫:封建礼教下的西式浪漫、
 結 語、
  附録1 哈葛徳創作的小説、
  附録2 馬泰来統計的林訳哈葛徳小説書名表、
  附録3 樽本照雄統計的清末民初哈葛徳小説訳作、
  附録4 阿英列出的晩清24種哈葛徳小説訳本、
  附録5 基于哈葛徳小説 She 拍攝的電影一覧表、
  附録6 哈葛徳伝記及生平研究書籍一覧表、
  附録7 哈葛徳1905年渥太華演講英文原稿及中訳文、
 後 記




金明編『中華翻訳家代表性訳文庫・林紓巻』
杭州・浙江大学出版社2020.3

2020.8.18
 内容は以下のとおり。
 =================================
 許 鈞「導言」、
●第1編 節訳本、
 1、吟辺燕語、
 2、拊掌録、
 3、現身説法、
 4、塊肉余生述、
 5、迦茵小伝、
 6、不如帰、
 7、離恨天、
 8、撒克遜劫後英雄略、
●第2編 全訳本、
 1、巴黎茶花女遺事、
 2、黒奴〓天録、
林紓訳事年表




『棠花怨』表紙、奥付なし
架蔵
 
孔夫子旧書網より


2020.8.17
 上記書籍で注目されるのは著者表記です。
 「中国天涯芳草館主海陽呉檮亶中訳」の表示により呉檮と天涯芳草館主がつながりました。
 これほど興味深いことはありません。




江中柱、閔定慶、李小栄、湯江浩、于英麗編『林紓集』全10冊
福州・福建人民出版社2020.4

2020.8.7
 内容は以下のとおり。
 =================================
 第1冊 文章、
 第2冊 詩詞、
 第3冊 小説/京華碧血録、金陵秋、劫外曇花、虎牙余息録、冤海霊光、巾幗陽秋、技撃余聞、畏廬漫録、畏廬筆記、蠡叟叢談、短篇小説輯佚、
 第4冊 戯曲、見聞筆記、講義雑著/合浦珠伝奇、蜀鵑啼伝奇、天妃廟伝奇、上金台伝奇、鉄笛亭瑣記、
 第5冊 文論、古文選評
 第6冊 翻訳/民種学、徳斉小伝、巴黎茶花女遺事、黒奴〓天録、伊索寓言、
 第7冊 翻訳/吟辺燕語、迦茵小伝、撒克遜劫後英雄略、魯濱孫飄流記、
 第8冊 翻訳/拊掌録、滑稽外史、孝女耐児伝、
 第9冊 翻訳/塊肉余生述、賊史、不如帰、
 第10冊 翻訳/冰雪因縁、離恨天、魔侠伝




瀬戸宏「商務印書館版《吟辺燕語》的文化意義――再論林紓的莎士比亜観」
『中国出版史研究』2019年第4期 2019.12

2020.7.26
 上記のような論文が公表されています。
 新しい資料も新しい提言もありません。林訳のラム名不記あるいは「序」をもちだして「林紓其実不明白劇本和小説的本質区別」(68頁)と従来どおりの古い見解をくり返しているだけです。林「序」では莎劇とラム本を区別していると何度指摘しても瀬戸博士は無視します。瀬戸博士の持論には不都合だからでしょう。
 ついでにいえばラム名不記と同じような例は清末民初の翻訳では多数あることを瀬戸博士は知りません。研究者としての常識が欠けている状態で立論するからいびつなものが出てくるのです。
 瀬戸博士の主張は以前から次の3点から外れません。同じようにこちらもくり返すだけです。

 1 論点ずらし――林紓批判の根本は「戯曲を小説にかえて翻訳した」でした。しかし真相はラム本を漢訳したものです。さらにQとデルの英文小説があります。小説を漢訳して小説になるのは当然です。批判の根本が成立しません。この事実は認めるほかないと理解したらしいです。そこでラム名不記の箇所を握って論点をすり替えます。次のようにいう考えです。要約します。林紓は文学革命派を騙すためにラム、Qの名前を故意に隠蔽した。つまり林紓を詐欺師に認定しました。
 2 被害者になりすます――「シェイクスピア作品ではないものをシェイクスピア作品として紹介した」が従来から使用している表記です。林紓はラム、Qの英文作品を莎劇だと偽ったという意味であるらしい。林紓が詐欺を働いたとして一方的に責任を押しつけています。文学革命派から攻撃されて被害者であった林紓は立場が逆転して加害者になります。それと同時に文学革命派と瀬戸博士は自動的に被害者になりすますことになりました。被害者であれば何を言ってもいいし何をしても許されると考えているらしいです。しかしそれは逆です。ラム、Qの改編作品を莎劇だと言い立てて攻撃したのは文学革命派の方でした。もとから虚偽の上に成立している攻撃なのです。
 3 二重基準を採用――林訳『吟辺燕語』に対してはラム名がないことを根拠にして瀬戸博士は激しく批判します。事実として存在するのが林訳にもとづいて創作した文明劇の莎劇もどきです。莎氏を大書してラムを言わない。林紓に対して実行した以上の批判が必要な箇所です。しかし「中国現代文学演劇研究の末席に連なっている」(317頁)瀬戸博士はこれについて紹介はしますが批判はしません。典型的な二重基準です。

 私の結論はこれもくり返しになります。「林紓を詐欺師に認定し林紓の名誉を毀損する瀬戸博士」は今もなお健在です。
 中国学界に事大するためには自爆も辞さない。日本の中国現代文学演劇研究専門家の実態が以上のようなことです。すでに破綻している立論をくり返してどうしようというのでしょうか。痛々しくてつい読んでしまう。
 老婆心ながら付け加えます。2017年に口頭発表した該文が『中国出版史研究』に掲載された事情を説明して「商務印書館張稷女士(論文集主編)」の紹介があったと述べています。ここで個人名を掲げることは張稷氏が瀬戸博士の論文主旨に賛成したと誤解されかねません。林紓の人権を侵害している瀬戸博士と同類の人物だ、と張稷氏が決め付けられたらどうするのでしょう。現在商務印書館は林紓の汚名を返上し名誉を回復する方向に編集出版方針を転じているように見えます。そこの社員の個人名を出すことには慎重であるべきだとは思わなかったのでしょうか。瀬戸博士の論文に関連して張稷氏にご迷惑がかからないように願っています。



 
CHARLOTTE M. BRAEME.“AT WAR WITH HERSELF.”
J・S・OGILVIE PUBLISHNG CO. THE SUNSET SERIES. NO. 203. 刊年不記(1890s)
 
天笑生訳「古王宮」
『月月小説』第2年第10期(22号) 戊申十月

2020.7.20
 包天笑訳『古王宮』の底本が黒岩涙香『古王宮』であることはよく知られています。いちいち文献をあげません。
 涙香訳の底本がクレイ本であることも周知の事実でしょう。ブレイム名で刊行されているのが上記の書籍です。




鄒小娟『20世紀初中国小説中的西方形象』
北京・中国社会科学出版社2019.8

2020.7.16
 内容は以下のとおり。
 =================================
 方長安「序一」、
 徐 康「序二」、
 緒 論、
 第1章 中西博〓:19世紀中期至20世紀初的、
 第2章 政治小説中的西方形象――以梁啓超≪新中国未来記≫為例、
 第3章 社会小説中的西方形象(一)――以呉趼人小説為例、
 第4章 社会小説中的西方形象(二)――以李伯元小説為例、
 第5章 社会小説中的西方形象(三)――以曾樸小説為例、
 第6章 女性解放小説中的西方形象――以頤瑣小説≪黄繍球≫為例、
 第7章 “華工禁約”小説中的西方形象――以佚名≪苦社会≫為例、
 第8章 科幻小説中的西方形象――以荒江釣叟≪月球殖民地≫為例、
 第9章 西方形象綜論、
 結 語、
 参考文献、
 後 記



 
ANDREIYEFF 著, JOHN COURNOS 訳, SILENCE       劉半農「黙然」          
PHILADELPHIA: BROWN BROTHERS, 1908       『中華小説界』1年10期 1914.10.1


2020.7.12
 劉半農漢訳「黙然」(『中華小説界』1年10期 1914.10.1)です。
 原作者も英訳者も明記していません。まるで劉半農の創作のように見えます。
 これの底本は LEONIDAS ANDREIYEFF 著, JOHN COURNOS 訳, SILENCE(PHILADELPHIA: BROWN BROTHERS, 1908)です。
 先行論文に梁艶『清末民初における欧米小説の翻訳に関する研究――日本経由を視座として』(花書院2015.3.25)があります。198頁で底本を(L. N. Andreyev 著)W. H. Lowe 訳 SilenceSilence and other stories, London: Francis Griffiths, Maiden Lane, Strand, W. C. 1910)と書いていますが違うでしょう。






笑「空谷蘭」
『時報』1910.11.8連載再開


2020.7.3
 包天笑訳「空谷蘭」は『時報』1910.4.11-1911.1.18に連載されました。
 途中で休載があります。宣統二年八月二十日(1910.9.23)から宣統二年十月初六日(1910.11.7)までです。
 ですから宣統二(庚戌)年十月初七日(1910.11.8)が「空谷蘭」の連載再開日なのです(上記写真参照)。冒頭に前回の要約が書かれているのがわかるでしょう。
 ところが陳大康著『中国近代小説編年史』[編年D2071]では宣統二年九ママ月初七日(1910.10.9ママ)の項目に「恢復連載≪空谷蘭≫」を配置しています。これは誤解を招くので不適切です。
 重ねて書きます。本来ならば[編年D2088]宣統二年十月初七日(1910.11.8)に「空谷蘭」の連載再開の記載が必要です。それがありません。




涙香小史訳「野の花」
『万朝報』1900.3.10

笑「空谷蘭」
『時報』1910.4.11


2020.7.2
 包天笑の「空谷蘭」が『時報』に掲載されたとき「笑」としか記述されていません(写真上)。
 「訳」がついていないのです。これでは包天笑の創作作品だと見えます。単行本になったときようやく「訳」を明記しました。よくあることです。不思議なことではありません。
 これが日本語の黒岩涙香訳「野の花」(写真下)の漢訳だとは一般読者にわかるはずがないのです。
 さらに涙香日訳には英語原作がありました。
 研究の結果、涙香『野の花』の原作者として4名の女性が出現したのです。
 クレイ、トマス・ハーディ夫人、もうひとりのハーディ夫人、ヘンリー・ウッド夫人たちです。
 結果はバーサ・M・クレイの『女の誤り』(Satoru Saito、黄雪蕾)です。2012年に指摘があります。
 本研究会ウェブサイトで掲載したのが2013年1月でした。
 以上の経過について詳細をご報告できる機会があるでしょう。




E. Perry Link, Jr(林培瑞)“Mandarin Ducks And Butterflies”
University of California Press、1981


2020.6.25
 黒岩涙香『野の花』の原作者については諸説あります。
 日本では伊藤秀雄の説明が有名です。
 「原本はミセス・トマス・ハーディ(英一八四〇〜一九二八)著『母の心』(The Mother's Heart)の訳」295頁
 実際には該当する作品はありません。
 ペリ・リンクが別のトマス・ハーディ夫人を提出しているのに気づきました。
 上記著作には“Lady Mary Duffus Hardy, wife of Sir Thomas Duffus Hardy”だとあります。
 Thomas Duffus(ダファス) Hardy(1804-1878)は日本で説明されてきた Thomas Hardy(1840-1928)とは時代の異なる人物です。
 トマス・ハーディの部分が一致していてとてもまぎらわしい。
 トマス・ダファス・ハーディの後妻がメアリ・ダファス・ハーディ(1825-1891)と説明されています。
 こちらのハーディ夫人は小説家であり旅行作家で有名です。ただし『母の心』(The Mother's Heart)という作品は見当たりません。
 トマス・ハーディ夫人に別人がいようとは考えてもみませんでした。
 どのみち涙香『野の花』の原作はクレイ『女の過ち』ですからふたりのハーディ夫人とは関係はありません。




SATORU SAITO,“DETECTIVE FICTION AND THE RISE OF THE JAPANESE NOVEL, 1880-1930”
HARVARD UNIVERSITY PRESS, 2012, EAST ASIAN MONOGRAPHS 345


2020.6.23
 黒岩涙香『野の花』の原作はバーサ・M・クレイ BERTHA M. CLAY『女の過ち A Woman's Error』です。そう黄雪蕾論文で言及がありました。
 SATORU SAITO が学会で発表した論文だそうです。それならば上記書籍を見れば記述があるのではないかと推測したのです。
 残念ながら該当する論文は収録されていませんでした。



 
柳田泉「黒岩涙香翻訳小説目録」      『書物展望』第49号 1935.7.1



2020.6.21
 上に掲げたとおりです。伊藤秀雄の著作に先行します。



 
『白髪鬼』                 『新蝶夢』



2020.6.13
 (意)波侖著、冷(陳景韓)訳『(写情小説)新蝶夢』上海北京・有正書局 光緒32(1906)/光緒33(1907)再版(影印本)です。
 涙香『白髪鬼』が漢訳されて陳景韓『新蝶夢』になりました。
 すでに以下の論文で明らかにされています。
 =================================
 [艶麗10]MARIE CORELLI“VENDETTA, A STORY OF ONE FORGOTTEN””1886。黒岩涙香「白髪鬼」『万朝報』1893.6.23-12.29。『白髪鬼』初後篇、扶桑堂1894
 [国蕊14]日訳底本:「白髪鬼」、ハビオ・ローマナイ著、涙香小史訳、扶桑堂、1893。原作:VENDETTA, MARIE. CORELLI
 =================================
 原作者マリー・コレリ(1855-1924)はイギリスの女性小説家です。それが涙香訳ではハビヨ・ローマナイになぜなるのか。
 近いうちにご紹介しましょう。




汪兆〓『走出晩清:大師們的涅槃時代』
北京・現代出版社2017.6/2019.6第2次印刷

2020.6.12
 内容は以下のとおり(抄録)。
 =================================
  第1章 民国元年(1912年)
 6.周樹人作小説≪懐旧≫,梁啓超〓≪新小説≫、
 7.伝奇人物蘇曼殊、
  第2章 民国二年(1913年)
 2.“如置身毫無辺際的荒原”的周樹人、  6.大名鼎鼎的“布衣”林紓“帯領我進了一個新天地(銭鐘書語)、
  第3章 民国三年(1914年)
 3.和晩清小説相比,民初的≪断鴻零雁記≫≪玉梨魂≫等政治意識明顕衰退、
 4.与“新小説”雙雄并峙的翻訳文学作品也大行其道、
  第4章 民国四年至民国五年(1915-1916年)
 1.新文学革命与陳独秀創〓的≪新青年≫、
 2.胡適在≪新青年≫発表翻訳小説≪決闘≫




徐蒙『中華書局雑誌出版与近代中国(1912-1937)』
台湾・元華文創股▲有限公司2020.2

2020.6.11
 内容は以下のとおり。
 =================================
 王余光「序言」、
 第1章 緒 論、
 第2章 民国時期出版環境雑誌発展、
 第3章 中華書局発展与雑誌建設、
 第4章 中華雑誌出版与民国教育発展、
 第5章 中華雑誌出版与民国政治社会議題、
 第6章 中華雑誌出版与民国実業思想、
 第7章 中華雑誌出版与民国平民文化生活、
 第8章 中華雑誌出版与民国少年児童生活、
 第9章 雑誌相関的重点人物、
 第10章 雑誌特色与中華書局経営策略、
 第11章 結 語、
 参考文献、
 附録1:1914年≪中華教育界≫和≪中華実業界≫広告比較、
 附録2:中華書局主要自〓雑誌価目表、
 後 記



 
BERTHA M. CLAY(本名CHARLOTTE M. BRAME)“A WOMAN'S ERROR”
CHICAGO: M. A. DONOHUE & COMPANY 刊年不記


2020.5.28
 黒岩涙香『野の花』を底本にして包天笑『空谷蘭』が生まれました。
 その涙香『野の花』の原作者は誰か。
 以前はヘンリー・ウッド夫人、トマス・ハーディ夫人の名前があがっていたのです。
 それをバーサ・M・クレイ『女人的錯(A Woman's Error)』だと指摘したのは黄雪蕾でした(優先権は Satoru Saito(崔文東注:斉藤悟))。
 その論文とは黄雪蕾 Xuelei Huang,“From East Lynne to Konggu Lan: Transcultural Tour, Trans-Medial Translation”,Transcultural Studies 2012. 2, Universitat Heidelberg. です。
 これを広くお知らせしたのが本研究会ウェブサイトで2013年1月付の掲載でした。
 上記のクレイ本が涙香『野の花』の原本であることを確認しましたのでお知らせします。
2020.5.30追記】楊文瑜、鄒波「『野の花』の種本と黒岩涙香の訳述に関する考察」(『東アジア日本語教育・日本文化研究』第19号 2016.3.31)においてすでに説明されていました。






2020.5.27
 『清末小説から』第138号を公開中です。
 既刊は『清末小説から』へどうぞ。




BERTHA M. CLAY“A GOLDEN HEART.”
NEW YORK: HURST & COMPANY PUBLISHERS 刊年不記

美国盤山克蘭著、西〓生訳『醋鴛鴦』
影印本


2020.5.17
 美国盤山克蘭著、西〓生訳『醋鴛鴦』の原作が BERTHA M. CLAY“A GOLDEN HEART.”であることをお知らせします。






緒方流水『青眼白眼』
鳴皐書院1902


2020.5.16
 上記書籍に「黒岩涙香」の章があります。それの「(五)原作と作者」が興味深いのでお知らせです。

▲(四十三)◎野の花◎(作者)バルサ、エム、クレイ(161頁)

 発表が明治35(1902)年という早い時期であることに注目します。涙香『野の花』の原作がバーサ・M・クレイと明記してあるところです。
 中国では長年にわたりヘンリー・ウッド夫人(エレン・ウッド)の原作だということになっていました。
 日本の伊藤秀雄は流水の該書を見ているはずです。ところがそれは採用せずにトマス・ハーディー夫人を提出しました。奇妙なことです。
 伊藤以外の研究者は誰もそれに気づかなかったということでしょうか。
 『野の花』の原作についてこれほど錯綜していた。不思議ですね。




柳和城『橄欖集:商務印書館研究及其他』
北京・商務印書館2020.1


2020.5.15
 巨冊なので背表紙まで表示しました。内容は以下のとおり。
============
 鍾桂松「序」、
 ●巻1
 “商務”:中国近代出版龍頭企業、   従涵芬楼到東方図書館、
 徐亮致張元済二十一通信札考釈、    ≪四部叢刊≫営業档案残巻一瞥、
 ≪営造方式≫的版本及其流布述略、   清末民初女士教科書巡礼、
 従中学教科書到清史名著――汪栄宝≪清史講義≫的版本変遷、
 商務印書館早期童書述略、       ≪児童世界≫里的歌曲与図画、
 ≪児童教育画≫様本巡覧、       少年徐志摩読過的美国遊記、
 九十年前的一本日暦表及其他、     ≪上海商業名録≫:中国首都企業黄頁、
 “商務”宣講書:≪国恥小史≫及其続編、 中華学藝社与它的出版物、
 商務印書館為浙江興業銀行両次印鈔考、 商務印書館電影部与国光影片公司、
 上海書業商会打〓的三場渉外版権公司、 商務印書館的世博情縁、
 商務印書館公私合営史料選輯――摘自≪史久芸日記≫、
 ●巻2
 張元済与≪戊戌六君子遺集≫、     潘景鄭題識的≪四部叢刊続集草目≫、
 ≪百衲本二十四史≫:原題古籍整理的典範、 涵芬楼志書与張元済的蔵書観、
 涵芬楼三部影宋本的前世今生、     張元済的宗教観与仏道転籍出版、
 張元済致盧弼逸札考釈、        ≪光緒秘史≫:張元済推薦的歴史小説、
 陳鼎≪黝曜室詩存≫印行前後、     張元済与≪精忠伝弾詞≫、
 新発現的両件張元済題簽、       張元済日本訪書中的一個小挿曲、
 ●巻3
 夏瑞芳被刺真相、           文化名人王雲五的人生歴遊、
 王雲五復張元済的一封長信、      孫毓修:中国童話的“開山祖師”、
 孫毓修与≪少年雑誌≫、        孫毓修与≪欧美小説叢談≫、
 読孫毓修先生≪書目考≫、       孫毓修小緑天蔵書及其書目、
 瞿啓甲与孫毓修交遊考、        商務印書館法律顧問丁榕、
 〓富灼:華工出身的編訳家、      周越然与≪英語模範読本≫、
 童世亨与商務印書館地図出版、     章錫〓離開商務始末、
 徐調孚火線救手稿、          “交際博士”黄警頑、
 魯迅与三十年代的商務印書館、     王素意与≪児童史地叢書≫、
 “心愛吾民埋吾地”――愛爾蘭医生柯師太福、
 施永格:熱愛中国文化的美国植物学家、 従書生到実業家――李維格其人其事、
 白人学者群中的東方女性――厳復孫女厳倚雲其人其事
 ●巻4
 応宝時、兪〓和≪同治上海県志≫、   人間自有書癡在:劉承幹与≪宋会要≫因縁紀略、
 南洋公学的両種≪蒙学課本≫、     美中不足的“老課本”系列、
 上海通社与≪通社叢書≫、       ≪蜃楼志≫:清末譴責小説之祖、
 従≪小英雄≫到≪小公主≫、      上海:原題連環画的初〓地、
 ≪新劇雑誌≫:中国話劇第一刊、    僅出一期的≪俳優雑誌≫、
 ≪劇場月報≫独樹“春柳”、      ≪戯劇≫月刊:提倡民衆戯劇的大本営、
 新劇小説社与它的出版物、       ≪遊戯雑誌≫里的新劇戯照、
 世界書局盛衰記、           茅盾与≪ABC叢書≫、
 郭沫若与≪孤軍≫雑誌、        蔡元培佚文六篇、
 蔡元培為≪藝〓≫手書発刊詞、     黄炎培≪苞桑吟≫及其親筆題記、
 大法官李良与≪国難集≫、       広告里的民国名流、
 後 記



蒋維喬著、汪家熔校注『蒋維喬日記:1896-1914』
北京・商務印書館2019.11


 内容は以下のとおり。
============
 汪家熔「序」、
 鷦居日記(1896-1908)、
 退庵日記(1908-1914)



黄曼『晩清海帰与小説』
武漢・華中師範大学出版社2019.8


 内容は以下のとおり。
============
 陳大康「序」、
 緒 論、
 第1章 小説写作、
 第2章 小説立意、
 第3章 伝統承続、
 第4章 市場開拓、
 結 語:晩清海帰与中国小説過渡中的進展与曲折、
 参考文献、
 附録1 海帰創作小説相関情況統計表、
 附録2 海帰翻訳小説相関情況統計表、
 附録3 海帰評点小説相関情況統計表、
 後 記



崔龍『希望之城与魔性之都:民国時期中日偵探小説中的“両個”上海』
成都・四川大学出版社2019.11


 内容は以下のとおり。
============
 序 言、
 第1章 中日偵探小説概説、
 第2章 批判与期〓、
 第3章 希望之城:程小青“霍桑探案”系列中的上海、
 第4章 魔性之都:日本偵探小説中的上海、
 参考文献、
 後 記



 
包天笑重訳『空谷蘭』
有正書局 刊年不記


2020.5.14
 包天笑『空谷蘭』には刊年が記載されていません。
 柳存仁氏(オーストラリア)よりの1996.8.24、10.1来信にて包公毅「空谷蘭」光緒34(1908)とご教示いただきました。
 それ以来、樽目録第2版(1997)より第12版(2020)まで1908年本の項目を独立させています。
 現在、1908年刊行の根拠がないことが判明しました。ということで柳存仁氏からのご教示による旧版の刊年「光緒34(1908)」は取り消します。
 ただし研究の経過を記録するために項目としては残すことが妥当だという判断です。注釈は必要だと思います。



2020.5.6
 本ウェブサイトの日付は更新されているが内容に変化はない、どこを更新したのかというお問い合わせです。
 すみません。部分的なものですから説明しませんでした。
 きっかけはネットでの検索です。『清末小説』第26号の論文1本が出てきました。ファイルを開くと文字化けして読むことができません。本ウェブサイトにすれば珍しい経験です。
 保守管理している電脳本体で点検しました。不都合は見つかりません。だいいち前後のファイルは正常に表示します。
 該号(2003)は html ファイルでウェブサイトには掲載しています。もとはテキストファイルで作製し「一太郎」で整形したものを印刷の版下にしたという経緯です。かなり昔のことですから。
 ついでなので今回第26号は論文すべてを pdf ファイルに作り直しました。省略していた挿絵を挿入したという違いはあります。どのみちそれらを再びウェブサイトに掲げたというだけのことです。
 過去の論文を整形したので目立った変化はないという結果でした。



 
  漢訳「棺材匠」         アリンスン英訳“THE COFFIN-MAKER”
                         open library より


2020.4.23
 昨日のつづきです。

蒲軒根原著、毋我訳「(短篇名訳)棺材匠」『小説時報』第17期 1912.12.1

 こちらも次の翻訳集に収録されていました。

ALEXANDRE DUMAS pe}re 著、ALFRED(RICHARD)ALLINSON 英訳“CROP-EARED JACQUOT AND OTHER STORIES”LONDON: METHUEN & CO. (1905)

 その“STORIES FROM POUSHKIN”にあるアリンスン英訳“THE COFFIN-MAKER”が漢訳の底本です。



 
  漢訳「神槍手」         アリンスン英訳“A FINE SHOT”
                         open library より


2020.4.22
 もうひとつの陳景韓漢訳プーシキンです。

俄国蒲軒根著、毋我、冷(陳景韓)訳「(短篇名訳)神槍手」『小説時報』13期 宣統3.8.15(1911.10.6)

 共訳者の毋我が鍵です。こちらは陳景韓単独訳ではありません。日本語を底本にしていないと考えます。毋我が関係しているので英訳でしょう。そうして見つけたのがつぎの英訳です。

ALEXANDRE DUMAS pe}re 著、ALFRED(RICHARD)ALLINSON 英訳“CROP-EARED JACQUOT AND OTHER STORIES”LONDON: METHUEN & CO. (1905)

 大デュマを前面に押し出しています。該書にはそれとは別にプーシキン作品が“STORIES FROM POUSHKIN”として3件収録されているのです。そのアリンスン英訳“A FINE SHOT”が漢訳の底本というわけ。



 
陳景韓漢訳「俄帝彼得」          昇曙夢日訳「心づくし」



2020.4.21
 陳景韓の漢訳プーシキンです。そのひとつは次のとおり。

(俄)蒲軒根原著 冷(陳景韓)訳「俄帝彼得」『小説時報』1期 宣統元年九月初一日(1909.10.14)

 日本に来たことのある陳景韓です。上記プーシキン作品については日本語訳が底本になっていると推測されます。
 以下の日本語訳が底本であることを確認しました。

プーシキン作、昇曙夢訳「心づくし(原名「彼得大帝の黒人」)」『新小説』明治40年(1907)2月1日

 これはのちに昇曙夢『(露国名著)白夜集』(章光閣1908.11.25 国立国会図書館デジタルコレクション)に収録されました。そのとき「黒人」と改題されています。
 ただし陳景韓は全訳していません。ほんの一部のみを抽出しています。だいたいプーシキンの母方の曾祖父であるペートル大帝の黒人その人が出てこないのです。
 以上、ご報告まで。



 
日本実藤文庫(扉省略)

 
中国影印本


2020.4.20
 漢訳江見忠功『地中秘』の影印本1冊を最近購入しました(写真の下)。それで驚いたことがふたつあります。

 1 該書はすでに所蔵していました。所蔵するといっても実物ではありません。日本の実藤文庫所蔵本を写真複写(写真の上。扉は省略)したもの。すっかり忘れていたのです。
 中国の影印本は印刷不鮮明です。実藤文庫所蔵本と比較すればはっきりとわかります。また上に示した表紙は影印本に見えません。扉を表紙にかえたようです。

 2 江見水蔭『地中の秘密』には2種類があります。同名書名で小説と探険実録です。それは知りませんでした。

 漢訳『地中秘』の底本については樽目録第3版(2002)より明記しています。江見水蔭『地中の秘密』青木嵩山堂1902.4です。
 今回、念のために国立国会図書館デジタルコレクションを見ました。こちらに収蔵するのは次のとおり。
 ●江見水蔭『(探険実記)地中の秘密』博文館1909.5.25
 漢訳の本文を比較対照しても一致しません。おかしいと感じます。なんのことはない出版社と刊年が異なっているのでした。
 だいいち1909年刊行の書物が漢訳『地中秘』(1906)の底本になるわけがありません。つまり同名の『地中の秘密』で1902年の小説と1909年の探険実録の2種類があると繰り返します。いまさらながらの事ですがご報告まで。



 
日本菊池幽芳著、興化韻琴女士訳『乳姉妹』上下冊 18章
上海・中国図書公司和記1916.6(上海図書館蔵)


2020.4.16
 菊池幽芳『乳姉妹』の漢訳です。上記の表紙と奥付は複写ですからご注意ください。
 原作は CHARLOTTE M. BRAME(筆名 BERTHA M. CLAY)“LORD LISLE'S DAUGHTER.”1880 であることはすでにお知らせしました。
 奥付の上広告に「完全華商」と商務印書館が掲げています。1914年に日本金港堂と合弁会社であったのを解消しました。1916年になっても「完全華商」と宣伝する必要があった。それくらいに日本金港堂との合弁会社という印象が当時の中国では強かったという証拠です。現在の研究者はほとんど誰もその事実に言及することはありませんが。




『小説時報』掲載



2020.4.12
 デュ・ボアゴベイ作、冷(陳景韓)訳「決闘」は2種類があります。
 ○『時報』1908.10.23-12.1掲載(未見)は国蕊論文によると以下のとおり。
 [国蕊14-15]一名金裏罪人「偵探小説」、『時報』1908.9.29-11.8新暦旧暦混用。日本語訳本:「悪党紳士」『絵入自由新聞』、1988ママ.12.4-1989ママ.1.24。原作:BOUCHE COUSUE(英訳:SEALED LIPS), 1883, FORTUNE/} DU BOISGOBEY.(注:伊藤29頁。『似而非(悪党紳士)』、原作はボアゴベイ(仏1824-1891)の『封ぜられし唇』、又は『閉じた口』(SEALED LIPS)とも云う)
 [国蕊19]『時報』1908.9.29-11.8新暦旧暦混用。黒岩涙香訳「似而非」『絵入自由新聞』1888.12.4-1889.1.24、其後改題為『悪党紳士』明進堂1890、原作:FORTUNE/} DU BOISGOBEY, BOUCHE COUSUE(1883)英訳SEALED LIPS
 もう1種類は上に掲げた「決闘」です。
 ○『小説時報』8、11期 宣統2.12.20(1911.1.20)、宣統3.閏6.5(1911.7.30)
 原作は次のとおり。FORTUNE/} DU BOISGOBEY“LES SUITES D'UN DUEL”1882。英訳“THE CONSEQUENCES OF A DUEL”1885。黒岩涙香『決闘の果』大川屋、三友舎1891.5.12



 
馬勤勤『隠蔽的風景:清末民初女性小説創作研究』      劉韻琴
天津・南開大学出版社2016.10 “性別視角下的中国文学与文化”叢書


2020.3.29
 上記書籍については2017年4月の本ウェブサイトで目次を掲載しました。
 女性小説家について詳細に記述しています。略歴と作品紹介がとても参考になります。
 できそうでできないのが馬勤勤氏が実物で確認したものと未見の作品を厳密に区別しているところです。感服します。
 「第4章 休笑女児無遠志 也曾仗剣走天涯――劉韻琴及其愛国啓蒙的反袁小説」で劉韻琴を取り上げています。それにより略歴を紹介しましょう。
 劉韻琴は江蘇興化の人(1884前後-1945)、祖父は劉熙載、南京で学び日本に留学、1915年から『中華新報』で記者活動を開始した。反袁世凱の作品を発表したのち1917(又1918)年にマレーシア・マラッカで教育に従事した。
 奇妙なことがひとつあります。劉韻琴の翻訳だといわれている『乳姉妹』(1916。菊池幽芳原作)についての説明がありません。日本に留学した経験がある劉韻琴であれば幽芳作品を漢訳していても不思議ではないのです。ですから多くの研究者は該漢訳を掲げます。
 劉韻琴ではない筆名の韻琴がいることを馬勤勤氏は書いています(196頁)。また陳尺山の号が「韻琴」だといいます(197頁)。
 漢訳『乳姉妹』の韻琴は劉韻琴ではないという馬勤勤氏の認識でしょうか。
 そうであればなんらかの説明が必要だと思うのです。無視をする意味がわかりません。



 
“A WOMAN'S TEMPTATION”架蔵本     『紅涙影』影印本    


2020.3.21
「陳梅卿『紅涙影』の原作」(速報)

 クレイ(本名ブレイム)著『ドラ・ソーン』を原作にする日本語訳2種と漢語訳2種があるといわれてきました。
 日本では末松謙澄『谷間の姫百合』、菊池幽芳『乳姉妹』です。漢訳は『一柬縁』と陳梅卿『紅涙影』。原作が共通しており互いに影響関係があるそれらを指して「文学家族」だという研究者もいます。
 それが現在大きく揺らいでいる。というよりも一族説は実のところ崩壊したのです。
 漢訳『紅涙影』について調べてみると原作は『ドラ・ソーン』ではないことがわかりました。
 (英)巴達克礼著、嶺南息影廬主(陳梅卿)訳『紅涙影』24回 4冊(広智書局 宣統1(1909)未見/上海・世界書局1927.8五版)の原作を紹介します。次のとおり。
=================================
 BERTHA M. CLAY(本名 CHARLOTTE MARY BRAME、1836-1884)“A WOMAN'S TEMPTATION.”LONDON: W. NICHOLSON & SONS, LIMITED, 刊年不記(架蔵本。雑誌初出は1875未見、1880、1884年本あり)
=================================
 2020年1月からクレイ(本名ブレイム)原作の翻訳本いくつかが中国と日本で明らかにされています。本ウェブサイトで紹介しているとおりです。
 最初は張治「評≪<説部叢書>叙録≫:電子書截成就的文献学創新」(「上海書評」『澎湃新聞』2020.1.16)の指摘でした。英国孛来姆著『一柬縁』の原作が CHARLOTTE MARY BRAEME“LORD LISLE'S DAUGHTER.”(1880)だという。新発見です。
 そのつながりで菊池幽芳『乳姉妹』の原作も特定されました。いままでいわれてきた『ドラ・ソーン』ではありません。『乳姉妹』も原作はブレイム(筆名クレイ)著『ライル卿の娘』です。
 日訳『乳姉妹』と漢訳『一柬縁』はクレイの同一本を原作にしています。しかしそれぞれが日本と中国で独自に翻訳されたのが真相です。日訳と漢訳には直接の影響関係はありません。
 上記『紅涙影』の原作も『ドラ・ソーン』ではなく原題を日訳すれば『女の誘惑』となります。
 なんといっても張治氏による最初の新発見がすばらしい。張治氏の学界への貢献度は高いと評価すべきです。それがあったからこそ日本語翻訳と別の漢訳作品の原作が明らかにされたという順序です。それも短期間に複数の謎が解決しました。
 張治氏の発見を導き出した書物があります。付建舟『商務印書館≪説部叢書≫叙録』(北京・中国社会科学出版社2019.8)です。こちらも学術的価値を十分に備えた専門書だということができます。
 クレイ原作の翻訳について日本と中国で新発見がこれほど続くというのも珍しい。それもウェブサイト上で互いに関連しているのが従来には見られない新しい状況です。



 
LORD LISLE'S DAUGHTER
1892

2020.3.17
 過日、ウェブサイト open library 収録の CHARLOTTE MARY BRAEME“LORD LISLE'S DAUGHTER.”(刊年なし)の書影を紹介しました。
 別版を入手したのでご紹介します。
 同一の組版で出版社、刊年の違う書籍が上のものです。ALLISON'S SELECT LIBRARY.NEW YORK: THE PHOENIX PUBLISHING COMPANY. 1892
【予告】
 『清末小説から』第138号(2020.7.1公表予定)は特別編集でお送りします。
 樽本「菊池幽芳『乳姉妹』の原作(誤解の系譜1)」が主要な内容となるでしょう。




KEN K. ITO. AN AGE OF MELODRAMA.
CALIFORNIA: STANFORD UNIVERSITY PRESS, 2008

2020.3.10
 明治時代に発表された『不如帰』『金色夜叉』『虞美人草』『乳姉妹』などを「メロドラマ」という鍵語で立論しています。
 ただし幽芳『乳姉妹』の原作がバーサ・M・クレイ『ドラ・ソーン』にもとづくと考えているのはほかの研究者と変わりません。いくら長く詳細に論じても基本が間違っているのですから誤った分析にしかならないのです。



 
(法)大仲馬著 貢少芹訳『(偵探小説)盗盗』
上海・文明書局、中華書局1915.5/1923.3七版

2020.3.6
 大仲馬の著作というのです。しかし貢少芹のことですからどうでしょうか。
 なにしろ莎士比原作『(言情偵探小説)盗花』(1916)という贋作を刊行しています。
 しばらく検討してみることにします。



 
(美)柏拉蒙著、商務印書館編訳所訳『(探険小説)紅柳娃』
上海・商務印書館1914.4再版 説部叢書1=44

2020.3.4
 上記作品の原作は不明です。
 「蓬艾怪談」がもとの題名だと書いてあります。谷川澄一「暗黒裏面之真相」が原作だと最初に注記したのは劉徳隆氏でした。
 その注記はすでに樽目録第4版(斉魯書社2002)に収録しています。
 張治氏が日本で調査しろと書いていますがすでに2002年の段階で一応は調べたのです。見当たりませんでした。
 今回も徒労に終わりそうですね。だいいち谷川澄一もその作品も日本の文献には出てきません。
 ネットがこれまで発達していてヒットしないのは少し変な気もします。




張治「≪説部叢書≫原作続考」
「上海書評」『澎湃新聞』2020.2.15

2020.3.1
 上記のとおり張治「≪説部叢書≫原作続考」が発表されています(崔文東氏に感謝)。
 https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_5978462をご覧ください。
 林訳小説の原作についていくつもの新しい発見があります。すばらしい。



 
 
日本『世界列国の行く末』   漢訳『未来戦国志』


2020.2.29
 原作(上)とその漢訳(下)です。




堀啓子『和装のヴィクトリア文学――尾崎紅葉の『不言不語』とその原作』
東海大学出版会2012.7.5

2020.2.27
 上記著作に興味深いことが書いてあります。
 引用は以下のとおりです。
=================================
[堀12-62]たとえば、彼女の名前はアメリカでは、Charlotte M. Braeme としても知られている。苗字のスペルが間違っているのである。これは、一八七七年に彼女の作品 Lord Lisle's Daughter がアメリカで出版された際の、植字工のミスによるもので、Brame を誤って Braeme と組み込んでしまったがゆえのトラブルである。
=================================
 ブレイムの綴りがアメリカで誤植されたという事実を述べている。それはいいのです。
 問題は Lord Lisle's Daughter を出している個所ですね。
 ここを読んだときは驚きました。まさか書名『ライル卿の娘』が出てくるとは思いませんでしたから。
 ただし作品名は書いていながらその中身の紹介がありません。堀氏は読まなかったのでしょうか。
 とても不可思議な説明だと感じます。堀氏は『ライル卿の娘』と自分で書きながらそれを素通りするのです。
 本研究会ウェブサイトですでに紹介しています。菊池幽芳『乳姉妹』の原作はブレイム『ドラ・ソーン』ではなく『ライル卿の娘』です。
 堀氏は2012年の著作に『ライル卿の娘』を出しているにもかかわらず幽芳『乳姉妹』と結びつけていない。
 すなわち堀氏は『乳姉妹』の原作であることを知らずに『ライル卿の娘』の書名だけを掲げたことになります。
 これほど奇妙な文章はあまり見たことがありません。




李艶麗『晩清文学与明治文学関係研究――“人情”与“女性”』
上海社会科学院出版社2019.12

2020.2.16
 内容は以下のとおり。
 =================================
 自 序、
  第1部分 
 第1章 跛行的西方文明介紹者――假名垣魯文与林紓之比較文学研究、
  第2部分 
 第2章 令人憧憬的“意気”之姿――以為永春水≪春色梅児誉美≫的女性形象為例、
 第3章 近代文人意識中“道徳”的理想主義――尾崎紅葉的“女性物語”、
 第4章 “悪”与“肉感”――対日本自然主義文学的再解読、
 第5章 蘭姆版≪莎士比亜物語≫在明治前期的訳介与伝播、
  第3部分 
 第6章 “徳”“情”之間的浮沈――作為写情小説家的林紓的肖像、
 第7章 “徳”“情”之間的浮沈――作為写情小説家的呉趼人的肖像、
 第8章 両性与“国家”――晩清写情小説、“新女性”小説与知識界、
 第9章 “男”“男権社会”中的“女性性”――易性書写的可能性、
  第4部分 
 第10章 日本晩清小説研究中的“実証”与“発現”――≪清末民初小説目録≫与≪林紓冤罪事件簿≫、
 第11章 林訳≪不如帰≫与外交偵探小説――徳富蘆花亦“無聞”、
 第12章 一個女子的“毒化”与“美化”歴程――假名垣魯文≪高橋阿伝夜叉譚≫与王韜≪紀日本女子阿伝事≫、
 第13章 晩清“衛星”概念的形成及其功能――従“支那記述”到“晩清記述”、
 後 記



 
BERTHA M. CLAY“DORA THORNE”CHAPTER 45      末松謙澄訳『谷間の姫百合』第45回     
1800年 HanthiTrustより                   1920年版     

2020.2.14
 菊池幽芳『乳姉妹』との関連で末松謙澄訳『谷間の姫百合』について気になる説明があります。
 バーサ・M・クレイ『ドラ・ソーン』を翻訳したのが末松謙澄訳『谷間の姫百合』です。その最終章は末松が創作したという。
 堀啓子「『谷間の姫百合』試論――Bertha M. Clay を藍本として」(『北里大学一般教育紀要』第5号 2000.3.31)の一節は以下のとおりです。

=================================
とりわけ四十五章は、「翻訳」であることにこだわり一言一句の変換にも心血を注いだはずの謙澄が、一章丸ごと創りあげて付与した最終章だ。原作では幸福な結婚で終わるはずのカップルの、十年後までを略述し、彼らの子孫やそれぞれの末路についてまで予測的に言及する。17頁
=================================

 “Dora Thorne”の第45章の冒頭と末松の該当部分を見本として上に掲載しました。原作のままに翻訳してあります。末松の創作ではありません。
 この事実についてはすでに潘少瑜「維多利亜《紅楼夢》:晩清翻訳小説《紅涙影》的文学系譜与文化訳写」(『台大中文学報』第39期 2012.12)の注59に指摘があります。
 すなわち「日本学者堀啓子認為≪谷間の姫百合≫中的此章是訳者末松謙澄自行添加,未知何據」(26頁)です。そのとおり。
 堀啓子氏が使用した底本には45章が欠けているのでしょうか。そこにある第45章が存在しないとはよくわかりません。おまけに末松の創作にしてしまうのは普通では考えられないのですが。
 堀啓子論文が発表されて長い時間が経過しています。また潘少瑜論文も発表されました。すでに誰かが訂正しているかもしれません。論文検索をしましたが見つかりませんでした。指摘済みでしたら申し訳ない。少し気になったので公表しました。

【追加】2020.2.19
 上記の問題についてすでに鬼頭七美氏の指摘がありました。以下のとおりです。
 「(21)堀は「『谷間の姫百合』試論――Bertha M. Clay を藍本として」(前掲論文)において、原作は四四章で閉じられるのに対し、謙澄は『谷間の姫百合』で四五章をオリジナルに加筆していると論じているが、論者が参照した『ドラ・ソーン』には『谷間の姫百合』の第四五回に相当する部分がある。」鬼頭七美「書き換えられた「女の道」――『谷間の姫百合』から『己が罪』へ」『日本女子大学大学院文学研究科紀要』第17号 2011.3.15。52-53頁

【追加2】2020.2.26
 『谷間の姫百合』の第45章は原作にもとからあります。鬼頭七美氏の指摘を掲げておきました。
 その後に公表された堀啓子氏の著作『和装のヴィクトリア文学――尾崎紅葉の『不言不語』とその原作』(東海大学出版会2012.7.5)では鬼頭七美氏の指摘を無視しています。
 以下のとおり。
 「じつは Dora Thorne は長編であったため、謙澄の『谷間の姫百合』は初めのうちこそ逐語訳に近いが、後半にいたるほど大胆な訳になっている。あまつさえ最終章はその一章すべてが、原作にはないくだりを謙澄の独断で加筆されている」56頁
 誤りをくり返しているのはなぜでしょう。よくわかりません。



 
張明観、張慎行、張世光編著『南社社友図像集』        貢少芹         
上海人民出版社2019.10                 

2020.2.5
 柳光遼「話説南社(代序)」があります。
 南社社友649名の肖像と略歴を収録するなかから貢少芹を掲げました。
 贋作シェイクスピア『盗花』の作者、メアリ・チャムリ『一粒鑽』の訳者です。




『豆瓣』2020.1.30


2020.2.2
 林紓が「出人意表之外」と「誤用」した件です。「豆瓣」(2020.1.30)に筆名・斉物秋水氏が新しい見解を書いています。それを紹介しましょう。
 問題の所在を簡単に復習します。本ウェブサイト(2018.12.29)に掲げました。
 常方舟「【書評】常方舟評樽本照雄≪林紓冤案事件簿≫|遅到却不応缺席的正名」(「上海書評」『澎湃新聞』2018.12.27 電字版)でした。常方舟氏は林紓が「出人意表之外」と書いた実例を提出したのです。掲載紙と発表年月を明記しているのははじめてで珍しい。林紓「賂史」第21章『東方雑誌』第16巻第7号(1919.7.15。147頁)です。
 ところが発表時間順に並べると前後が一致せず説明できません。
=======================
(参考:1918.3.15 真出人意外 王敬軒(銭玄同)『新青年』第4巻第3号308頁)
 1919.6.1  出人意表之外(林琴南先生用語) 隻眼(陳独秀)「対於日使照会及段督〓通電的感言」『毎週評論』第24期第2版
 1919.6.8  出人意表之外 仲密(周作人)「前門遇馬隊記」『毎週評論』第25期第4版
1919.7.15 出人意表之外 林紓「賂史」第21章『東方雑誌』第16巻第7号147頁
 1921.9.6  出於意表之外 周作人「山中雑信」『晨報・副刊』
 1922.2.5  出人意表之外 止水(蒲伯英)『晨報副鐫(晨報附刊)』(常方舟氏のご教示)
 1923.1.5  出人意表之外 銭玄同「“出人意表之外”的事」『晨報・副刊』
=======================
 「出人意表之外」と最初に書いたのは林紓だと陳独秀、周作人、銭玄同らが批判しました。ところが上を見ると陳独秀、周作人の方が林紓よりも前になるのです。それより以前の林訳から実例を探して示してほしい。それがその時の私の要望でした。
 その矛盾を斉物秋水氏は今回次のように説明します。1919年7月よりも先の1919年6月に陳独秀が「出人意表之外」を使用した事情です。
 「表面上は時間の差があるように見えるが林紓が『東方雑誌』に投稿したのは当然ながら7月よりも前のことで6月あるいは5月もっと早いかもしれない。雑誌の編集者である杜亜泉はもとから新文学派の側に立っていたから陳独秀とも交際があり、あるいは林原稿が発表される前に陳独秀に内容を知らせていたかもしれない。だから陳は引用することができた」
 これは驚きました。興味深いといってもいいです。
 斉物秋水氏の説明は次のとおり。『東方雑誌』の編集を担当していた杜亜泉が林訳を雑誌掲載以前に陳独秀に見せていた。
 杜亜泉は商務印書館社外の陳独秀にそういうことができたのでしょうか。にわかには信じがたいです。
 それとも杜亜泉はまさか「出人意表之外」の語句だけを事前に陳独秀に知らせたとか。林紓が漢訳原稿に「出人意表之外」という奇妙な表現を使用していますと陳独秀にご注進したのでしょうか。
 その説明どおりだと杜亜泉は陳独秀のスパイ(内通者)だったことになります。いいのですか。
 それでは陳独秀の1週間後に周作人が同じことを書いているのはどうなるのか。周作人も同じ林訳原稿を読んだことになる。そうとは思えません。陳独秀の尻馬に乗っただけ。自分で実例を確認していないことになります。それも含めて説明してほしいところです。
 斉物秋水氏の説明によると商務印書館に勤務する杜亜泉は自社の発展に多大な貢献をした林紓を文学革命派に密告したわけですね。くり返しますがそんなことを書いて大丈夫なのでしょうか。筆名ですから斉物秋水氏が誰かは私は知りません。書いた責任は斉物秋水氏にあります。
 別の筆名・業是吟詩与看花氏は中国で百冊を超える林訳を読んでいるのは張治と自分だと表明しています(2018.10.12)。ところが林紓が「出人意表之外」を使用した実例を1916年6月以前の著作に見つけることができていない。1年以上も経過しているのですがご本人は何も発言していないのです。そこで今回の斉物秋水氏の出番となったのですか。少なくとも斉物秋水氏も同様に実例を指摘していません。あくまでも推測です。
 私が要求しているのは1916年6月の陳独秀以前に公開された林訳から「出人意表之外」の使用例を提示してほしいという単純なことです。
 別の林紓研究の中国人研究者にもお願いしました。1年以上になりますがこちらからも返答がありません。
 ここはやはり名前が挙げられた張治氏に探索を要請するしかありませんね。期待しています。よろしく。

『豆瓣』2019.2.27


 ■本文を書きあげたあと「豆瓣」に筆名・Lexiphanes 2019.2.27の文章を見つけました。気がつきませんでした。題して「樽本照雄対≪林紓在1919≫的批評意見」です。
 どうやらその筆名は張治氏らしい。張治氏の書評について本ウェブサイトで紹介したことを取り上げています。発表時間の不一致については「不過我猜想,也許林訳的文稿在発表前那幾位已経看到了〓[私は推測するのだがたぶん林訳原稿が発表される前にその何人からがすでに読んでいたのだろう]」と書いています。
 今回の斉物秋水氏はそれを反復しただけです。
 密告者によって公表される前の林訳原稿を読む。そこにある語句を捕まえて林紓を批判する。林紓を非難するために陳独秀は何でもやったことになります。単純な表現問題ではありません。政治闘争そのものです。
 張治氏と斉物秋水氏ともに密告者の存在を普通のように認識している。日本の私から見ると違和感があります。
 スパイがいると推測したことは張治氏は陳独秀以前の林訳を探索したが該当箇所を見つけることができなかったことになりますか。残念なことです。■
 私から新しい資料を提出します。
 それとはまったく別の貢少芹作から似たような「殊出人意料外」の使用例があります。
=======================
 1916.6  殊出人意料外 Mary Cholmondeley 原著、貢少芹+石知恥合訳『(偵探小説)一粒鑽』上海・文明書局、中華書局。48頁/69頁
 1916.6  今茲失踪。殊出人意料外 (英)莎士比原著、貢少芹訳意『(言情偵探小説)盗花』上海・文明書局。中華書局。16頁
=======================
 上の『一粒鑽』はチャムリの原作。下の『盗花』は贋作シェイクスピアです(以上の2作品について文章を公開する準備は完了)。
 林紓の1919年7月よりもはるか以前であることに注目してください。
 ほかにも同じような例があるのではないでしょうか。
 私が言いたいのはこうです。
 林紓以前に貢少芹が「殊出人意料外」を書いている。陳独秀はそれらを林紓が書いたことにして濡れ衣を着せたのではないのか。一方林紓は陳独秀が押し付けた「出人意表之外」をわざと自分の訳文に使ってみせて皮肉った。
 1919年6月以前刊行の林訳に「出人意表之外」が出てくるのであれば以上の見解は撤回します。その実例をご指摘ください。



 
BRAEME本1897 NICKELS AND DIMES より         幽芳『乳姉妹』後編1904


2020.2.1

 原作とその日本語訳です。挿絵の構造が似ているので掲げます。
 左(または上)は原作のブレイム(クレイ)本です(C. M. BRAEME.“LORD LISLE'S DAUGHTER.”FIRESIDE LIBRARY VOL.4 NO.45, 1878.11.21)。
 右(または下)は鏑木清方の筆になります(菊池幽芳『乳姉妹』後編 春陽堂1904三版)。よく知られているものでしょう。

(菊池幽芳『乳姉妹』の原作に関しては樽本照雄が学術的優先権を有します)



2020.1.25
学術的優先権について

 先日本ウェブサイトに掲げた『乳姉妹』の学術的優先権についてご質問をいただきました。
 問題は『電術奇談』の方だそうです。『電術奇談』の原作にそのような問題があるのか、という具体的なはなしです。  事実として存在します。
 菊池幽芳『乳姉妹』についてネットを調べていました。すると姜小凌「明治与晩清小説転訳中的文化反思――従《新聞売子》(菊池幽芳)到《電術奇談》(呉趼人)」(『文化研究』第5輯 2005.5)が今さらながら出てきたのです。ネット上に保存されていました。
 私はだいぶ以前に読んでいます。『電術奇談』の原作が菊池幽芳『新聞賣子』であることが書かれておりしかも詳細です。(後述)
 私が『電術奇談』の原作『新聞賣子』を探し当てたのは姜小凌論文よりも20年も前にさかのぼります。
 それまでは『電術奇談』の原作が不明でした。すると中国人研究者はほとんどといっていいくらい全員が呉趼人の翻訳ではなく再創作だと書くのです。探索の方向が違うでしょう。
 原作を突き止めて公表したのが「呉趼人「電術奇談」の原作」(『中国文芸研究会会報』第54号 1985.7.30)です。中国人読者のために漢語で「呉趼人《電術奇談》的原作」(『清末小説から』第6号 1987.7.1)も発表しました。
 『清末民初小説目録』1988年初版から「菊池幽芳「新聞賣子」75回『大阪毎日新聞』1897.1.1-3.25。のち単行本、大阪駸々堂、前後編2冊1900.9.12/10.30」と記述しています。
 最初になんだろうなと違和感を抱いたのは王立言による説明です。1988年のことでした。あたかも独自に調査したように『新聞賣子』の新聞連載と単行本を示しました。その上で彼は『電術奇談』の内容を簡単にまとめています。その語句は樽本が説明したそのままを使用しているのです。その箇所を示します。
=======================
樽 本(1985)「新聞賣子」は、恋愛幻想探偵小説である。幽芳の言う通りたしかに「事実錯綜趣向変幻巧みに読者の好奇心を動かす」作品だ。
王立言(1988)在日本這種作品称“新聞賣子”、即恋愛幻想偵探小説、以事実錯綜、趣向変幻巧妙吸引読者。
(『清末小説探索』法律文化社1998の153頁に収録)
=======================
 王立言は樽本の名前をだしていません。普通これを無断借用したといいます。
 しかも王立言の説明を絶賛したのが盧叔度でした。新しい発見だと最上級の褒め言葉を提示したのです。あれ、あの著名な呉趼人研究の専門家が事実を知らないのかと落胆したものです。この人たちが学術的優先権について知らないわけはありません。ただ外国の学界のはなしで自分たちは関係がないと思っているのでしょう。中国学界には世界とは違う独特の習慣があるらしい。
 以前はそれくらいのことで終わるわけです。私以外は誰も気にしません。
 さて姜小凌の論文にもどります。『電術奇談』の原作について次のように説明します。

 「題為《新聞賣子》,明治30年(1897)1月1日至3月25日連載于《大阪毎日新聞》,共75回。明治33年(1900)10月,≪新聞賣子≫単行本由大阪駸々堂出版、分上,下両巻75回」

 読んだときの不可解その1。姜小凌がどのように原作『新聞賣子』の存在を知ったのか書いていない。
 不可解その2。『大阪毎日新聞』の連載期日まで出して奇妙に詳しい。本当に実物で確認したのだろうか。普通は単行本で示すでしょう。
 不可解その3。単行本は「10月」と「下巻」だけの刊行を書いています。前編1900.9.12はなぜ無視するのか。よくわかりません。

 読んだあと、典拠を示す必要がないくらいに普通の認識になったものかと書いた記憶があります。当時は力抜けしたという状態ですね。
 今回もう一度読み直してみてやはり違和感は生じます。
 細かなところです。文中に哈佛大学教授韓南(Patrick Hanan)が登場します。姜小凌はハーバード大学にいたことがあるらしい。
 そればかりか注にこまかく姜小凌自身の体験が記入されています。以下のとおり。

[v] 筆者与韓南教授的談話記録。2003年4月24日,星期四,于哈佛大学。
[xviii] 根据筆者参加哈佛大学杜維明教授的課堂筆記2004年4月14日,星期三。
[xxiii] 李欧梵教授在哈佛大学晩清文学翻訳課堂上多次指出這一点。

 いずれも著名な教授たちです。ハーバード大学での談話、授業で聞いたことまで書き込んでいます。そうならば『新聞賣子』をどのように知ったのかを書くのが当然ではないでしょうか。研究上の手順を踏んでほしい。
 どう考えても学術的優先権という側面からいって王立言、姜小凌のやり方は間違っている。そう強調しておきます。  個人名をあげているのは具体的な実情を知ってもらうためです。それ以外の意図はありません。
 いうまでもありませんが研究は先行文献に新しい何かを付け加えることによって進歩する。私はそう考えています。先行文献を無視してはなりません。




頼慈芸『訳難忘:遇見美好的老訳本』
台湾・聯経出版事業股▲有限公司2019.5

2020.1.24
 漢訳『巴黎茶花女遺事』、『十五小豪傑』、『天方夜談ママ』、『新庵諧訳』、『銀瓶怨』などについて解説。本文から一部を引用しています。




楊玉峰『南社著訳叙録』
中華書局(香港)有限公司2012.12

 貢少芹、石心恥合訳『一粒鑽』などそれぞれに説明と書影を収録しています。






菊池幽芳『乳姉妹』前編
春陽堂1904.1.1/12.30六版

 
CHARLOTTE MARY BRAEME“LORD LISLE'S DAUGHTER.”1880。open library. 普通は BRAME と綴る。

2020.1.23
菊池幽芳『乳姉妹』の原作(速報)

 菊池幽芳『乳姉妹』(春陽堂1904)の原作について報告します。
 幽芳『乳姉妹』の原作は明治の同時代から筆名バーサ・M・クレイ BERTHA M. CLAY(本名シャーロット・M・ブレイム CHARLOTTE M. BRAME、1836-1884)『ドラ・ソーン DORA THORNE』だといわれてきました[堀07-154]。
 ところが同一作品を翻訳した末松謙澄、二宮熊二郎合訳『谷間の姫百合』(金港堂1888-1890)が先行するのです。
 幽芳は先行翻訳があるものをなぜふたたび底本としたのか。理由がわかりません。
 堀啓子はその隙間をいろいろとつくろった。

 「翻訳である「谷間の姫百合」の限界に、敢えて同一原作のつくり変えを以て対抗しようという挑戦である」[堀07-152]
 「幽芳が敢えて Dora Thorne を原作に選んだ意義を問うならば、「谷間の姫百合」から十五年、読者に圧倒的な支持を得た同作のヒロインたちを、時の流れとともに成長させ、変貌させることで、骨太な作品を再生し、読者を魅了するという試みがあったといえるのではないだろうか」[堀07-150]
 「敢えて同一の原作を擁したことにより、「乳姉妹」はけっして「谷間の姫百合」の焼き直しとしてではなく、新たな別個の作品として作り上げられたことを証明してみせた」[堀07-150]

 「敢えて」をくり返して苦しい説明です。なぜ苦しいかといえば『乳姉妹』の原作を『ドラ・ソーン DORA THORNE』だと思い込んでそれを前提に立論しているからです。別作品を底本だと誤認したから説明に齟齬が生じて的外れになるのはしかたがありません。
 幽芳『乳姉妹』の原作は『ドラ・ソーン』ではありません。本名シャーロット・M・ブレイム“LORD LISLE'S DAUGHTER.”(1880)です。
 英国孛来姆著『一柬縁』(商務印書館1906)の原作について張治の指摘がつい先日ありました。『一柬縁』の原作は CHARLOTTE MARY BRAME(1836-1884)“LORD LISLE'S DAUGHTER.”(1880)だという[張治20]。
 それを確認し把握すれば日本の近代作品に関連する問題があることに気づきます。追及していくと“LORD LISLE'S DAUGHTER.”が漢訳『一柬縁』とは別にそれよりも少し前の日訳『乳姉妹』に一致したという経緯です。
 中国張治の新発見が遠い昔に出現した日本幽芳『乳姉妹』につながったというわけ。
 『乳姉妹』はイギリスと日本、中国をそれぞれ結ぶ当時の翻訳界の1例でもあります。ただし多く見られる、たとえばあの漢訳『電術奇談』のようにイギリス→日本→中国と受け継がれていったのとは方向が違うのです。

【略号】
[堀07]堀啓子「翻案としての戦略:菊池幽芳の「乳姉妹」をめぐって」『東海大学紀要・文学部』第86輯(2006)2007.3.30 電字版
[張治20]張治「評≪<説部叢書>叙録≫:電子書截成就的文献学創新」「上海書評」『澎湃新聞』2020.1.16 電字版

(なお菊池幽芳『乳姉妹』の原作に関しては樽本照雄が学術的優先権を有します。『電術奇談』の日本原作も同様)




張治氏のお知らせ
中国のネットから

2020.1.20
 上述のおしらせを王玉氏よりいただきました。ありがとうございます。
 目録第12版の編集作業を終了したあとに張治氏の書評を読みました。
 申し訳ありません。間に合いませんでした。上に書いてあるように第12版には張氏の新発見を収録することができなかったのです。
 引き続き目録次版を編集しています。氏の新発見はそれに記述する予定。第13版の来年公表をお待ち下さい。
 もうひとつ。
 張治氏は翻訳作品の原作について細部まで厳密に説明しています。私はてっきり張治著『商務「説部叢書」研究』の刊行が準備されていると思ったのです。そのつもりがないというのはまことに残念なことだといわなければなりません。






清末民初小説目録第12版
樽本照雄編 ファイル名 qmbook12.pdf 約65MB


 目録第11版を小規模に増補訂正し第12版と改題しました。
 ダウンロードできます。




鍾書主編『〓海花・老残遊記』
上海世紀出版集団、上海文化出版社2014.12/2016.1第2次印刷

2020.1.19
 鍾書「前言」あり。
 「老残遊記」は20回のみ、初序なし、無評。
 『〓海花』は35回。両方ともに版本などについての説明はありません。




張治「評≪<説部叢書>叙録≫:電子書截成就的文献学創新」
「上海書評」『澎湃新聞』2020.1.16

2020.1.18
 上記のとおり書評が発表されました。
 https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_5513219 をご覧ください。
 近く張治著『「説部叢書」研究』が出てくる予感がします。期待しています。




『書論』第45号 特集 長尾雨山 狩野直禎先生追悼
2019.11.30

2020.1.17
 長尾雨山については以下のとおり。
 =================================
 長尾雨山を特集するに当たって……杉村邦彦
 『書論』第45号「特集・長尾雨山」に寄せて……長尾進一郎
 父長尾正和が願った事……森井裕子
 「長尾雨山関係資料」のこれまでとこれから……呉孟晋
 長尾雨山と書画文墨趣味ネットワーク……松村茂樹
 長尾雨山と儒葬――朱熹『家礼』の実践……吾妻重二
 夏目漱石と長尾雨山・森鴎外と黒木欽堂……田山泰三
 讃岐における長尾雨山の交友と書碑……太田剛
 長尾雨山と山本竟山……蘇浩
 長尾雨山と庄司杜峯――「庄司喜孝翁追思碑」と「南無杜峯仏」をめぐって……杉村邦彦
 長尾雨山略歴……杉村邦彦
 三野二山の生涯と長尾雨山・大西見山との交友(1)……田淵元博
 長尾雨山京都在住期初期の詩文詠作――『京都日出新聞』の記事を主な資料として……柴田清継
 雨山と木堂……金地真司
 そのほか




周痩鵑訳、蔚庭標点『欧美名家短篇小説』
長沙・岳麓書社1987.8

2020.1.14
 『欧美名家短篇小説叢刊』の復刻版。原本3冊を1冊に圧縮しています。
 内容は以下のとおり。細目は省略しました。
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 魯迅、周作人対本書的評語、
 天笑生序、
 天虚我生序、
 鈍根序。
 上巻・英吉利之部、
 中巻・法蘭西之部、美利堅之部、
 下巻・俄羅斯之部、徳意志之部、意大利之部、匈牙利之部、西班牙之部、瑞士之部、丹麦之部、瑞典之部、荷蘭之部、塞爾維亜之部、芬蘭之部。
 伍国慶「後記」



 
張永久『鴛鴦蝴蝶派文人』                 
台湾・秀威資訊科技股▲有限公司2011.4               

2020.1.12
 上に掲げた張永久本は本ウェブサイト昨年12月22日の同氏『摩登已成往事――鴛鴦蝴蝶派文人浮世絵』(右図)と同内容です。
 張永久は鴛鴦蝴蝶派について説明しています。左翼文学陣営に属さない作家はすべて鴛鴦蝴蝶派のレッテルをはられて不公正な待遇を受けた。的確な記述だと思います。
 それはいいのです。ただ上の2冊は書名と発行地が異なります。てっきり別物だと思って購入したのでした。なんだか納得のいかないやり方ですね。
 違うのは書名と発行年月日、出版社くらいでしょうか。発行順にならべます。
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 張永久『鴛鴦蝴蝶派文人』台湾2011.4「後記 文壇沈寂的半壁江山」2011.1.15 本文に写真なし
 張永久『摩登已成往事』天津2012.1「後記」2010.10.20 本文に写真あり
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 それぞれの「後記」に題名がついていたり無題だったりはします。主要参考書目は1、2が一致しないだけ。
 奇妙なのは上のとおり「後記」の日付です。あとから刊行された天津本の後記日付は先に出た台湾本の後記よりも古いです。
 出版を予定していた天津本が遅れて後から出るはずの台湾本が先に刊行されてしまったということですか。
 台湾本「後記」の最後5行に秀威出版公司に対する謝辞が付加されています。そこが天津本と明らかに違う。
 それにしてもどちらかに出版事情の説明があってもよかったのではないかと思います。



 


 


2020.1.11
 漢訳『劇場大疑獄』関係の書影です。手元にあるのは次のとおり。
【左上】無〓羨斎主人訳『劇場大疑獄』下冊のみ、角書は偵探小説、刊年なし、線装本、60-118丁。「商報局刊」とある。広智書局 光緒33(1907)年版と同じか?
【右上】黒岩涙香『劇場の犯罪』扶桑堂? 奥付なし。
【下左右】複写版 表紙と扉 Fortune/} du Boisgobey“The Crime of the Opera House”下冊 LONDON: VIZETERRY & CO. 1886
 漢訳は下冊のみ。涙香本は奥付なし。ボアゴベ原作は下冊のみ。いずれも完全ではありません。
 調査はこれくらいの状況から始まるのが普通です。涙香本は国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。
 今後いろいろ資料を入手する予定です。徐々に全体が見えてくるでしょう。
 韓一宇の著作([韓08-312])が有力な手がかりを与えてくれていることを忘れてはなりません。感謝。



 
(英)蜚立伯倭本翰著 林紓、魏易同訳『(偵探小説)藕孔避兵録』1915年版と1909年版

 
E(DWARD) PHILLIPS OPPENHEIM“THE GREAT SECRET”と“THE SECRET”

2020.1.5
 林訳は同文です。原作の書名が“THE GREAT SECRET”と“THE SECRET”のふたつあるという不思議。
 原作も同文です。ただ書名については「または“THE SECRET”と称する」。そういう記述を見たことがあります。



 
MARY CHOLMONDELEY 著           貢少芹、石知恥訳述

2020.1.2
 上記右の『一粒鑽』の原作は MARY CHOLMONDELEY“THE DANVERS JEWELS”1887 であることをご報告します。
 ご注意下さい。上記左の英文原作は合訂本の電字版を印刷したものです。表紙は現在の出版社が勝手につけたもの。初期の版本ではありません。
【追記】2020.1.12/楊玉峰『南社著訳叙録』(中華書局(香港)有限公司2012.12)に原作が“THE DANVERS JEWELS”1886であると指摘されていました。





2020.1.1
 本年もよろしくお願いいたします。


 【予告】『清末民初小説目録 第12版』を本年3月頃に公開する予定です。
 『清末小説から』第136号を掲げています。




はじめに
 『清末小説から』の最新号所収の論文と『清末小説』(第35号2012で終刊)ほか清末民初小説目録、樽本の主要著作をダウンロードすることができます。
 これまでの研究会活動を紹介するかわりに雑誌『清末小説(研究)』の編集ノートをあつめた編集ノート集をかかげました。おおよその活動が理解できるでしょう。

あらためまして
 中国の清末小説(しんまつ しょうせつ)を専門に研究している会です。清末とは清朝末期のことを指します。厳密にいえば「中国の」と付ける必要はありません。清末は中国にしか存在しませんから。まあ丁寧に言っております、くらいのことですのでご了承ください。
 年代でいえば1900年代から1911年の辛亥革命をへて五四前です。
 日本ならば明治30年代から大正初期にあたります。
 というわけで清末小説を専門にしているといっても中華民国初期の小説も含んでおります。誤解のないようにお願いいたします。
 それならばいっそのこと「清末民初小説研究」と名づけていいようなものの、長いです。
 研究会と称していますが組織はありません。会員もいません。
 定期刊行物として季刊の『清末小説から』(ウェブでの公開を継続中)および電字版著作集を公表することが研究会の目的です。


清末小説研究会 http://shinmatsu.main.jp